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なまえは、走っていた。道路工事で手前で足止めを食ったタクシーを降りてから、休む事なく、ひたすら走っている。
その為に、脾臓は急激な収縮をし、横隔膜が痙攣して脇腹が痛みを訴える。その顔に玉のような汗が滴り、息が切れ、爆発しそうな位、心臓がドクドクと強く激しく鼓動が脈打つ。
……苦しい。
苦しいが【早く!早く!】と急く気持ちでいっぱいの心が足を止める事を許さず、彼女を走らせてた。
オヤジさん宅で挨拶を交わし、乾杯をして談笑しながらオクの手料理に舌鼓を打つなまえの携帯が鳴ったのはそれより30分程、前であろうか。
(なまえ:ん?小野瀬さん?なんだ?珍しいな……)
なまえ:はい。
小野瀬:あ、なまえ君?大変なんだ。今、昴君と飲んでいたんだけど……
なまえ:え?大変って?何かあったの?
小野瀬:ああ、それが──
焦る気持ちで言葉を待つがなんだか要領を得ない。要は飲んでて、昴に何かあったらしい。
なまえ:ど、どこ?場所っ!場所、どこっ!
昴が大変と聞いては、もう冷静に話を聞き判断してる余裕なんてない。携帯すら切るのを忘れ、握りしめたままだ。なまえの様子に驚くみんなに『ごめん!急用で帰る!』と叫び飛び出すが、状況的に考えてかつがれてると谷田部に止められ『行かせたくない。好きだ』と告白されるが、はっきりと『大事な人がいるから』と断った。昴の元に行くべく、大通りまですっ飛んで行った。
車体の前に飛び出すような勢いで無理矢理タクシーを止め乗り込んでから、漸く、切れた携帯に気付き、掛け直すが、小野瀬も昴も出ない。
仕方なく、携帯をしまい、震える手を祈るように握りしめる。
なまえ:昴、待ってて、今、行くから。昴……どうか、無事でいて。
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