(今頃どうしてるか)と思いながら、酒を呷(あお)る。そうやって、数杯目かの、グラスを空けた頃、ふいに小野瀬さんに言われる。
小野瀬:なぁに?そんなになまえ君が心配?
昴:え?
穂積:ふっ、浮かない顔して、こんだけため息つきゃー、普通分かるだろ。さっきだって、お前にしちゃ珍しく、小野瀬が入って来たのすら気が付かなかったろう。
昴:……。
そうだ。小野瀬さんが来た事に気が付かなかった。オレは元SPだ。自慢じゃないが、人の気配には敏感だ。それなのに、気が付いたら、もういたのだ。こんなのは珍しい。もしあれが、警護中ならやられてる所だ。
小野瀬:で?大事な彼女を谷田部君にとられないか心配?
昴:オレは、別に……。
穂積:(軽くため息をつき)だいたい、あいつは浮気なんてするようなヤツじゃねえだろう。
昴:それは、分かってます……(また、酒を呷る)
小野瀬:分かってても気が気じゃない、んだよねぇ。
昴:マスター、ストレート、ダブルで。
マスターが大丈夫か?と言うように穂積を見る。フッと笑い頷く穂積。
穂積:ま、飲め。潰れたら送ってやるよ。今夜だけ特別にな……。
口調こそ、いつも通りだが、その瞳は、世話の妬ける弟にでも見るかのように優しい色を宿している。が、今の昴にはそれに気付く余裕はない。黙って、喉の奥にぶつけるように酒を流し込む。
様子を見ていた小野瀬が
小野瀬:君がそんなだと、からかい甲斐がなくてつまらないねぇ。
呟くように言い、携帯を出しどこかに掛ける。
小野瀬:あ、もしもし──。
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