ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そして、阿久津先生は室長に目線をやる。「穂積さんは、確か、彼女のお父様にお会いになった事があるのよね? 彼女、貴方が『ショックを受けたようで、申し訳なかった』って言ってたわ。……お会いになったなら分かると思うけど、アルコール中毒から痴呆が進行してお父様はお兄さんの事をかろうじて覚えているけれど、彼女のことは存在すら覚えてない。彼女にはお兄さんも、いるにはいるけれどねえ……。疎遠になっているのよ。彼は昔から、彼女にも家にも興味がなくてね。彼女の話だと、大人になったいまでも興味どころか、彼女の存在すら認めてないって話なのよねぇ。うーん……ただちょっと気になるのは、私の印象だと彼ってもっと気弱なおとなしそうなイメージで……彼女の話から受ける彼の印象とはギャップがあるんだけど──でもうちと外で違うってひともいるしねえ。ともかく、いずれにせよ。お兄さんは頼りに出来ないのは、間違いないわね」 そこまでとは知らなかったオレは、阿久津先生から聞いたその話に衝撃を受けた。「……な、なんなんですか! それじゃ、それじゃ……あんまり……」 ショックやら怒りやらが入り交じり、血の気が引くのを自分でも感じた。言葉が出ず、二の句が継げなくなった。室長がそんな気持ちを察するようにオレの背中を、黙ってぽんぽんと叩いた。阿久津先生もオレの気持ちが分かるようで『そうね。あんまりよね……』と呟いた。そして、気持ちを切り替えるように言葉を続ける。「もちろん、なまえ君にも味方はいるわよ。あなた方や、私や秋月さん一家だったり、お友達だったりね。でもあの子は、周りの人達に心配を掛ける事を嫌う。辛くても無理にでも平気な振りをするわ。昔からね。あの子はそうやって生きてきた……。でも、弱音すら吐かないで一人で抱えるのは、本当はかなり辛いと思うのよね。そうして、毎年この時期にそういう無理がみーんな身体に出てしまってる。本人も気にしてるし、なんとかしてあげたいんだけど。精神的なことから影響してるから、劇的な特効薬なんかないしねぇ。救いは彼女が諦めてないってことね。ちゃんと、幸せになろうとしてるの。大切な人達を見つけて、感謝しながら大事にして……。少しずつ幸せになって行ってるのよ。分かるでしょ?」 優しい目で微笑む。「だから、私も自分の出来る事で応援しようと思ってね。今の所は夏の間、点滴を受けてもらっているの。後は吐き気止めとお腹の薬とビタミン剤と精神安定剤の類いと睡眠導入剤……。それに、貧血のお薬も必要ね。今日、出して置くから帰りにもらって行ってね」 阿久津先生は、机に向きカルテに何か書き込むと『うーん』とうなった。「あの様子じゃ、眠れなくても眠剤はやっぱり飲んでないのね……。ふぅー。朝、起きられない場合があるし、ボーッとして緩慢になる事があるからねぇ」 ひとりごとのようにつぶやいたあと、教えてくれた。
このサイトの読者登録を行います。 読者登録すると、このユーザーの更新履歴に新しい投稿があったとき、登録したアドレスにメールで通知が送られます。