3。
──二十四時間、守りたいひと。──
あの夜に彼女と結ばれてから、数ヶ月経ち六月になった。付き合いはおおむね順調だが、気になることも多少ある。
(今日はどうだろう?
なまえやつ、やっぱりなんかあったのかな。最近、なんとなく元気がねーんだよなあ。あいつ……)
朝の警視庁の廊下を捜査室に向かいながらオレは、彼女のことを考えていた。ふと俯いていた顔をあげると、前を歩く彼女の背中を見つけた。その後ろ姿はどことなく元気がなくて、とぼとぼとした足取りだった。オレは足を速め追いつくと『おはよう』と声を掛けた。オレを見て『昴、おはよー』と返す彼女はくまが出来、顔色が悪かった。
「
なまえ、大丈夫か? お前、くま出来てる」
心配するオレに彼女は、口元のゆるめ薄く微笑んだ。
「ちょっとバテてるけど、なんとか平気」
微笑んではいるが、その微笑みは力なくかろうじて笑ったように見える。
(大丈夫かな? 心配だ……)
「無理するなよ?」
頷く彼女を見ながら、捜査室のドアを開ける。
「おはようございます」
「おはよーございます……」
ふたりで挨拶をしながら中に入る。
「はい、おはよう。あら? チビ助、元気ないわね」
「おう、おはようさん」
「昴、チビ、おはよう」
「おはよう。……チビ、キミ大丈夫?」
室長、藤守、明智さん、小笠原が挨拶を返し彼女の近くに寄る。後ろから如月も入って来てすれちがいざまに、彼女の様子に気づき聞く。
「おはよーございまーす。あれ? チビ、調子でも悪いのかー?」
心配するみんなにまた薄く微笑み『大丈夫ですよ』と返すが、あまり大丈夫そうには見えない。
「その割りには……キミ、いつもより顔が白くない? くまも出来てる」
「そうよ、チビ助。アンタ、本当にひどい顔してるわよ」
「チビ、風邪でもひいたか?」
「そういえばここんとこチビ、元気なかったよねー?」
「どないしたんや? お嬢。具合が悪いんか? それとも、なんや悩み事でもあるん? あるんなら、なんでも遠慮せんと言うてえや。聞いたるで?」
『おはよう。穂積、これ頼まれてた件』と言いながらドアが開き小野瀬さんが入ってくる。『うん?』と彼女に気付き顎を持ち顔を眺める。
「なぁに? おチビちゃん。なんか悩み事でもあるの? 可愛い顔に、くままで作って。恋人に浮気でもされた? なんなら俺が慰めてあげるけど」
(あ゛? 慰めるだと? 冗談じゃねーぞ!)
内心、焦る。が、彼女は愛想笑いを浮かべると、するっと小野瀬さんの手を外し逃れた。
「あー慰めはお気持ちだけで……。室長、僕達そろそろ外回り行って来ます」
「新大久保の露出狂ね。でもチビ助、大丈夫なの?」
「はい、大丈夫ですよ。昴、行こう。じゃ行って来ます」
「チビ助、無理するんじゃないわよ。一柳、気をつけてみててやって。頼んだわよ」
「はい。了解しました。行って来ます」
彼女と一緒に捜査室を出た。
● ○ ● ○
外回りに出向き、心配で隣の彼女にもう一度念を押す。
「
なまえ、本当に大丈夫か? キツい時は言えよ?」
「はい、了解です」
あまり元気のない笑顔とともに返事をする彼女に、オレは睡眠と食事はとれているのかを確認した。彼女はそれには答えず、曖昧に濁して『さあ、そろそろ行きましょう』と歩き出した。
なまえは本当に必要な時──たとえば、刑事として取り調べ中*マル被を*落とすのに必要な時などは別として── 以外には嘘はつかない。言い辛い事は、今のように曖昧な返事をする。
(つまりは睡眠も食事もとれていないって事だな)
ここ三週間、彼女が忙しいようだったのでゆっくりニ人で過ごしてない。
(最後にレストランで、一緒に夕飯を食ったのが一週間前。あの時も、いつも旨そうに飯を食う
なまえが『食欲がない』と箸が進んでいなかった。あれから昼間もあまり食べていなくて、気になっていたんだが……。今日はかなりつらそうに見えるし、心配だ)
「ん? 昴? どうした? しかし、まだ夏前なのに夏みたいに暑いよな。早く秋にならないかな。僕、暑いの弱いんだ。でもさ、僕は大丈夫だから、そんな顔するなよ」
オレの心配顔に気づき、彼女はそう言って笑った。