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「い、ひゃ!」『はなひへ!』とチビ助が鼻から俺の指を外し膨れながら言う。「痛いですよ。もう! 本当に僕は何もしてないんですから! ただ、トイレに入ろうとドア開けたら後ろからいきなり……」 赤くなった鼻を擦りながらぶうたれるチビ助と、それを横目に不快気に眉を寄せてチビ助を冷やかに見る一柳。『……プッ、アハハハ』 一瞬の沈黙の後で意味を理解した二人以外の連中が、可笑しくて堪らないという様子で一斉に吹き出した。「ああ、なるほどねー」「まあ、仕方ないな。チビ、怒るな」「そうやで。それは間違ってもしゃあないやんか」「間違える確率九十八パーセント」「えー小笠原さん、九十八パーセントってあんまりだよぉ! みんなもその反応、ヒドイ!」 チビ助が、膨れながら皆を睨む。「むーっ。ところで一柳さん。海司兄ちゃんから僕の事、聞いたんですよね? 海司兄ちゃんからそうメールが来たんですけど。なんて言ってました?」「あ? ああ、頑張り屋で腕の立つ自慢の弟分が居るから頼むと言われたが。まさか覗きをする奴とはな」 一柳がチビ助に、失望したとでも言いたげな顔で答える。「はぁ!? 弟、分? そう言ったんスかぁ!?」 目を真ん丸くするチビ助。「……プッ、ハッハハ……あーおかしい! アハハハ。それじゃますます一柳君は悪くないね」 小野瀬がツボに入ったらしく、腹を抱えて大笑いし始め、チビ助の顔がみるみる内に赤くなった。「うきゃー! 海司兄ちゃんめーっ! 後でまわし蹴りかましてやるぅー!」 チビ助が、地団駄を踏み怒り始める。一柳は状況が掴めないようで頭の上に疑問符をつけたような顔をしつつ、みんなの出方を伺うように周囲を見回している。(やれやれ……) ため息をつきたくなる気持ちを抑え、まずは興奮するチビ助に説教をする。「こら! アホチビ! 物騒な事言ってんじゃねえ。大体な、そのなりと言葉使い直せって、いつも言ってるだろうが。そろそろどうにかしろ!」「イヤだよぉーだ! ベェー!」「この野郎、事もあろうに上司にアッカンベーとはなんだ! 拗ねてんじゃねえ。少しは反省しろ!」──ビシッ── 俺はチビ助に、デコピンを食らわせた。「ぐっ! いっってぇー、悪魔のデコピン、パねぇ。ぐぅー暴力反対ーっ!」 痛さにおでこを押さえ目を潤ませて、チビ助が喚く。「うるせえ! あ、一柳。このアホチビは、アレだ。見えねえだろうが、これでも女だ」「はあー!? おんなぁ?」 思ってもみない展開なのか、かなり驚き一柳は目を見開いてチビ助を凝視した。「まあ、チビ助の格好に惑わされなければ、分かると思うんだがなあ」 チビ助は色も白いし、くりくりとした瞳で可愛らしい顔立ちだからな。……ま、可愛いタイプの少年にも見えるがな。
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