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「コイツの一番古い記憶は、母親に怒鳴られながら殴られてる記憶なんだと。でもコイツ『殺されなかっただけマシ』って笑ってたよ。居場所がねえから公園に行くけど、汚ねえ格好してるから誰も近寄らない。コイツんちは、田舎からガキの頃に引っ越して来たらしいんだが。そこでも、こっちでも、大人も子供もみんな遠巻きにひそひそ陰口を言いながら見てるだけで(あーあ、ここでも同じか)って腹空かしてボーッとしてたんだってよ」 オレはその情景を想像して、せつなくなった。「そん時にお前の同僚だった、秋月と秋月の女房が声掛けてくれたんだと。本当の兄貴はコイツを完全無視して目もくれないのに、ニ人にはずいぶん可愛がってもらったって嬉しそうに言ってたよ」「兄貴が、いたのに? 完無視で目もくれねー?」「ああ、そうだ。まるで、存在が無いみたいにな。……透明人間みたいだったってよ」「そんな……ひでえ……」 なまえが、そんな風に生きて来たのかと思ったら胸が詰まった。「おい、二人共。そんな顔するな。チビ助に笑われるぞ」 絶句するオレと小野瀬さんに、室長が言う。「だけど、普段のおチビちゃんからは想像もつない話だな……」「…………」 小野瀬さんがぽつりと言った。オレは何て言ったら良いのか、言葉が出て来なかった。明智さんが口を開く。「この話は、俺達も聞いてる。チビがうちに来てまだ日が浅い頃にふとした事から、そういう話になってな。何も知らない俺達は、なにげなく『何があったんだ?』って聞いたんだ」 思い出すように言葉を切った明智さんの後を引き継いで、小笠原が天井を見たまま言った。「彼女『本当にツマンナイ話で、ちょっと暗いんですけど……それでも良いですか?』ってあっけらかんと笑い飛ばすみたいに話してくれた」「もう昔の事だし、自分が悪い訳じゃないから隠す気はないんだって、そう言うんだよねー」 如月が言う。「お嬢は頑張り屋さんやし、痩せ我慢も得意や。けど、ホンマは泣き虫の甘えん坊さんなんやで」「ほんとに目が放せないですよねー」「一柳。コイツの相棒、荷が重くなったか?」 黙ったオレに室長が、聞いて来る。なまえの生い立ちにショックは受けてはいるが。重いだの、イヤになっただのは、ねー。むしろ……今こうして笑顔で頑張るなまえは、スゲーと思った。だから真っ直ぐに室長を見てキッパリと答えた。「いえ、そんな事ありません。なまえはオレの相棒ですよ」 そう言うと室長はフッと笑って、酒瓶を差し出した。「そうか……まあ飲め」 暫く静かに酒を飲んでると小野瀬さんが、頭を抱えながらうめくようにもらした。「あーぁ、マズかったな」「あ? 何が?」「何って穂積。知ってたんなら、もっと早く教えれれば良かったのに」「ああ? だからなんだ?」「審査会だよ。そんな事とは知らないから。俺、からかっただろう?」『アレは、ないよなー』と明智さん、藤守、如月が小野瀬さんを冷たく見る。
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