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恋愛経験未熟で疎い僕はこんな状況、慣れてない。苦手だし……。恥ずかしさも手伝って正直言って、泣きたくなった。だけど──。(こんな事で泣くの嫌だ!) こらえ、もっとぎゅっと目を閉じた。でも、それが良くなかった。「その顔いいねぇ。そんな可愛い顔で誘ってるの? 目、閉じてるしキスしちゃおうかな」 からかうような、楽しむような、それでいてなんとなく妖しく響く小野瀬さんのその声に身体がビクッと震える。(キスぅ?! ええーっ? いくら何でも、そんな遊びみたいなのヤダよぉ!) 瞬間的にそう思ったのと、ほとんど同時に横から腕が伸び、僕を掴むとグイッと奪うように引き寄せられた。『あっ』と声が漏れた時には、一柳さんの背が僕を守るように目の前にあった。彼の背中を見た時、思わずすがり付きそうになった。それをこらえ、彼のスーツを握る。「アンタ、今、可愛いって言ったよな。じゃあ、判定は合格って事だ。……真山はオレの相棒だ。アンタの玩具にされてたまるか!」 一柳さんの背で、彼の禀とした力強い声を聞く。小野瀬さんが、ため息をつきながら言った。「はいはい。分かったよ。ちょっと度が過ぎました。ごめんね。おチビちゃん」 喧嘩にならずにホッとした。顔を出していつものように笑って、雰囲気を変えようと思ったのにうまく行かない。 それどころか何故か、頭の中に思い出したくもない情景が、フラッシュバックして来た。それは幼い頃の、緊迫した空気。激しく言い争う両親。激高し酔った父が母に暴力を振るう情景──。(何で? ヤダ……) 恐怖がまざまざと蘇り、全身から血の気が引いた。顔が引きつって、身体が震えて来る。(しっかりしろ! これは過去の事だ) そう自分に言い聞かせ、平静になろうとする。だが冷や汗が背中を流れ、指先が冷たくなっていく。(ヤダ……こんなの、誰にもに見せたくない! こんな僕、見られたくないよ!) 思わず目の前の一柳さんの背にすがって、顔を隠すように押し付けスーツに一層、ぎゅっとしがみつく。そのまま『は、はい……』と、なんとか返事をした。それが、今の僕にはやっとだった。 僕は震える身体も抑えられず今、手を放せば崩れ落ちてしまいそうで……。一柳さんには悪いけど、彼に引っ付いたまま動けなくなった。「おい、もう大丈夫だ」「…………」「……お前、震えてるのか?」 答えず動かない僕に、小声で一柳さんが言う。僕は、何とか少し顔を上げた。彼と目が合う。泣きそうな顔をしてたのかも知れない。一瞬、彼の目が驚いたように揺れた。こんなの情けなく思うけど、取り繕う余裕なんて今の僕にはない。そのまま俯いた。 一柳さんが、軽くため息を吐く。「しょうがねーなー」 その言葉を耳にした瞬間、また血の気が引いた。(あっ……迷惑だよ、ね) 焦り慌ててパッと手を離す。嫌われたかもと、ますます泣きたい気持ちになった。「あ、あの。ご、ごめんなさい……」「ああ? 怒ってんじゃねーよ。安心しろ」 そう言って僕の頭を撫で、一柳さんは椅子に掛けたようだった。そして僕に『ほら、来い』と言った。
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