1ー1。
──アブナイ捜査室?!──
● ○ ● ○
その日は、珍しく全員が捜査室にいた。藤守が外周りに行く為に、チビ助に声を掛ける。
「出られるか。ええんやったら、行くで?」
その声に書き物をしていたチビ助が、作業を止め手早く机を片し腰を上げる。
今席を立ったアイツは、
真山なまえ。背が小さく人懐っこい仔犬みたいな風貌で一見少年に見えるアイツは、実は女だ。僕だの俺だの言って、風変わりな所もあるが『仕事に男も女もない』と男並みに働く。頑張り屋で骨があり、下っぱの新人ながら、なかなか見所がある。そんな
真山を、俺は大抵
【チビ助】皆は
【チビ】相棒の藤守は
【お嬢】などと呼んで可愛がっている。
「僕、トイレ行ってから追っかけるんで、先出てて下さい!」
「ええよ、ええよ。急がんでも。待っててやるから」
チビ助が『すみません』と言いながら出て行く。
あの大阪弁のヤツが、藤守賢史。面倒見が良いので、チビ助を任せていた。ヤツは、たまに妙な東京弁で話す。そういう時は浮わついてるか、良からぬ事を考えてるか──妙な東京弁の時は、一応注意している。普段は信用も出来るし真面目なんだが……ぶっ飛ぶと、飛んでもねえ。今までで一番驚いたのは、証拠品のエロ本を持ち帰ろうとした事か。全く、ガキみたく純情で恥ずかしがりなくせに、女には興味深々。そういう所は田舎にいる俺の弟と一緒。まあ、バカな所はあるが憎めねえヤツだ。
「藤守、ちょっと待って。一柳がもう来るはずだから」
藤守を引き止める。藤守は『はい』と答えて、席を立つとこちらにやって来た。
今日は、俺が桂木さんの所から引き抜いた新メンバーが、異動して来る日だ。
新メンバーに加わる一柳は、警視総監の一人息子。ハーバード大学卒のキャリアで優秀。
俺はソイツを、今藤守とチビ助が担当している*ヤマにつかせようと思っている。
「室長、異動って今日でしたっけ?」
「そうよ。そうだ藤守、今担当してる世田谷のヤマだけど。アンタ、一柳が来たらヤツと交代してちょうだい。アンタには、明日から例の別件を頼みたいの。このヤマは一柳とチビ助に、担当させるから。今日の内に、引き継ぎしておいて。頼むわよ」
俺の指示に『了解です』と藤守が返す。この課を仕切る俺は、ある事情から職場ではおネエ言葉を使っている。本当の所、オカマはフェイクで俺は至ってノーマルな九州男児なのだが、周りはそれを知らない。『あそこは頭がオカマだから』と陰口を叩かれるが、気にはしていない。そのオカマネタと一緒によく出回るのが[穂積泪は
【桜田門の悪魔】だから]というネタ。そういえば高校時代も
【錦江湾の悪魔】と言われていた。モットーは、有言実行。
*ヤマ:事件