Prologue
──SPから捜査室へ──
オレ、一柳昴はこの度桂木班を離れ、緊急特命捜査室に異動することになった。通称、警視庁の
【すぐやる課】【雑用室】と呼ばれる捜査室と、警備部第一係の桂木班は、以前一緒に要人警護した事がある。急な来日で捜査室を警護担当に指名して来たが、命をプロ集団に狙われている要人を護るには人手も時間も不足し、昔からの知り合いだった桂木さんに、捜査室長の穂積さんから依頼が来たのだ。
捜査室は個性的だが仕事の出来る奴らの部署で、任務はスムーズに完了した。どうやらオレはその時、穂積さんに気に入られたらしい。
「穂積は俺とは違うタイプだが、優秀なヤツだぞ。得るものも多いと思う。どうだ? 昴」
正直迷いもあったが、結婚して幸せそうな海司と
結菜を見るのがちょっとキツかったオレは、桂木さんのその言葉に背を押されるように異動を決めた。
上がりの時間になり、報告書を書く為にSPルームに戻ると海司がいた。
「お疲れ。海司、一人か?」
「あ、お疲れ様です。昴さん、異動って本当なんスか?」
「なんだ、もう聞いたのか? ああ、本当だ。急な話だが、面白そうな部署(ところ)らしいからな。来月から行く事にした」
「えっ? 来月ってすぐじゃないスか。……ずいぶん急ッスね」
「向こうも、人手が足りないらしい」
「昴さんが行っちゃうと、寂しくなりますね」
海司がしんみりした口調で言った。
「お前にも世話になったな」
「行く前には無理ですけど、後からでも飲みましょう。連絡しますから、絶対来て下さいよ」
「フッ、ああ。ありがとな」
「あ、そうだ。異動先って、緊急特命捜査室ッスよね?」
「ん? そうだが、なんだ?」
「そこに俺と
結菜の幼なじみで、
真山なまえってヤツがいるんスよ」
「へぇ、どんなヤツだ?」
「口は悪いしやんちゃなヤツなんスけど、頑張り屋で根性あるし、腕も立ちますよ。俺が柔道みてやってたんッス。一見そんな風に見えないスけど、強いスよ」
「じゃあ、海司の弟子か、会うのが楽しみだな。しかし、お前が口が悪いって言うんじゃソイツも相当だな」
「ハハハ。だけど、アイツはちょっと事情があって……昔から苦労してるんです」
何かを思い返すような顔で言う。
「なのに曲がんねぇで真っ直ぐで。ホント、俺達の自慢の弟分なんスよ。けどあいつ、無鉄砲でね。すぐ無茶やらかすんで俺も結菜も心配してたんッス」
海司は、一旦言葉を区切り『でも、昴さんが一緒なら安心ですね』と、笑みを浮かべてから、オレにもう一度『アイツの事、よろしく頼みます』と頭を下げた。
「ああ、わかった。任せろ」
そう返しながら、オレは何となく
真山なまえに興味がわいた。