ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
● ○ ● ○ あれは、つい先日のことだった。カレンダーの前で、彼女がボーっと立っていた。微動だにせずボーっとしてるので、心配になった。オレがどうしたのか訊ねると『生理、止まった。最近こんなこと、なかったのに……子供産めなくなったら、どうしよう』とボソッと言った。言ったきり途方に暮れたような顔で固まっているので、揺すって大丈夫か聞いた。彼女は『跡継ぎ……』と一言。子供に関しては二人で話し合い、もう少し落ち着いてからということにした。前もってオレから親戚どもにもその旨を話し、口を出さないよう言ってはある。だが、困ったことにあいつらはそんなんじゃめげない。オレの隙を突いて彼女一人の時に、色々と言う。彼女はそれを、どうこうとオレに言うことはない。だが、かなりのプレッシャーを感じているらしい。跡継ぎという言葉は、そこから来た一言だろう。どうにか気持ちを和らげてやらないと、どんどん追い詰まって行くかも知れず……。彼女をソファーに連れて行き、ホットミルクを飲ませた。彼女は相変わらず呆然としたまま『どうしよう……。頭が働かないの。何にも考えられない』と言う。痛々しくて、膝に抱え頭を撫でながら言った。「そういう時は、無理に考えなくていいよ。オレが考える」 すぐ調べてみたら、疲労とストレスからそうなることがあるらしい。早めに医者に診てもらった方が良いらしく阿久津先生に相談したら、知り合いの女医さんがいる産婦人科を紹介してくれた。今は飲み薬を飲んでいる。 その後、心配してた阿久津先生が家に往診に来た。同席してもらい、オレからそれとなく気持ちを聞いてみた。彼女は大丈夫の一点張り。「なまえくん、どうにか、現状を変えないとダメなんじゃないかしら。お休みをとるとか、職場を変えてもらうとかは難しい?」 「お前、クタクタだろう? 少し休んでまた頑張ればいい」「僕は平気だ。平気。……平気なんだ。頑張れる。ちゃんとやれる。平気、平気だよ。平気……だって……やるしかねーもん。他に、ねーんだよ。そうだよ。やるしかねーだろ? 休職だの、異動だのって……冗談じゃないよ! 出来ねえだろ、そんなの。だって、そうだろ? 僕が逃げ出したらあいつ、どうすんだ。新人のあいつを教育係の僕が見捨てんのか! ンなこと出来る訳ないだろうがっ!」 途中から怒り出した。立ち上がり、イライラしたように頭を掻き乱し『出来る訳ねーよっ!』と叫んだ。オレと話していて、膨れて口げんかになることはあっても、こんな風に突然キレるなんて初めてだった。それだけ、余裕がないっていうことだろう。「大丈夫、大丈夫なんだ。僕はなんともないっ! つらいことも、怖いこともなーんもねーよ。僕は平気、平気だ! もういいからっ! ほっといて!」「分かった。なまえ、落ち着け。な? 分かったから。なあ、なまえ。すごくつらい時はオレに、ちゃんと教えてくれ。な? 分かるよな?」 ひどく興奮してるので、落ち着かせようと腕を掴んだ。彼女は『僕はまだやれる。大丈夫なんだ。頑張れるよ』と、まるで自分自身に言い聞かせるように繰り返す。オレにはそれがギリギリの状態で苦しい、苦しいと助けを求めている声に聞こえた。抱きしめて背をさすった。少し落ち着いてきたので状態を診て阿久津先生が鎮静剤を打った。彼女が眠ってから阿久津先生が、オレに言った。「なまえくん、かなり追い詰まってるみたい。心配だわ。いずれにしても、このままじゃダメよ。何か対策を取らないと。どうしたらいいかしら……」「そうですね。早急になんとかしないといけませんね。苦しんでる彼女をこれ以上、追い込まない方法で」 結局、その夜は考えてもいいすべも浮かばなかった。『私も考えてみるわ。何かあったら、いつでも連絡してちょうだい』と阿久津先生は帰って行った。 彼女はそのあとも、ボーっとしてるなと思い顔を覗き込んだら、声も出さず無表情なままつつーっと涙を流してるのに、本人には泣いてる自覚がないなんて事があったり、口数が極端に少なくなってほとんど話をしなくなったりする日もあった。 そんな状態だったが、結婚記念日の今日、久々に休めることを楽しみにして、ここ何日か頑張ってたんだ。
このサイトの読者登録を行います。 読者登録すると、このユーザーの更新履歴に新しい投稿があったとき、登録したアドレスにメールで通知が送られます。