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● ○ ● ○ 葬儀を終え帰宅した。どこか疲れ切った様子の彼女を誘い風呂に入った。湯船で顔を擦るようにして深い深いため息を吐く彼女の表情は見えない。ただ、心底疲れているのは伝わって来た。「大丈夫か?」「んー? 大丈夫、と言いたいところではあるけど。大丈夫じゃない。気分がねぇ、上がったり下がったりしてる。不安定。今はね、もう笑う元気もない。ただ、ただ、疲れた。色んなことがあり過ぎだ。頭も心も追いついて行けない。今、頭に浮かぶことと言ったら[親が死んでも涙も出て来ない]って事。なんとなくぽっかり穴が開いたみたいな空虚さはあるけど、悲しみとは違う気がする。その事に僕は今、少なからずショックを受けている。やっぱり僕って人間として欠陥品かもって。大事なもんが欠落してんじゃねーかなって。ショックだよ。そりゃあさ、真実を知れた事は良かったよ? でも、何も変わんねーんだよ。父さんが死んでも泣ける程の思い出もない事とか……今さら知っても、なーんにも過去は変わんねーんだよ。ほんと……疲れたよ。なんつーか、色々思ってた事と現実に差がある事が分かってもさ。それについて、考えたくないし考えられない。何だか本当に疲れて余裕ない。もう、すべてにふたをして逃げてしまいたいよ。きみに逃げ込んでしまいたい。逃げたらダメとか、いいとか……そんな判断も今の僕にはつかない。こんな事ぐだぐだ言ってきみ困らせるとかさ、きみに配慮する余裕もない……ひたすら、疲れた。ねえ、僕はどうしたらいいの?」 彼女は迷子の子供みたいに、不安そうな心もとない顔をした。「おいで」 抱き寄せて言った。「オレに逃げ込め。いいよ。今は何にも考えなくて、いい。お前、頑張ったじゃないか。ちゃんとお義父さん送ったよ。もう休んでいいよ」「そう? 逃げても、いいの? 全部放ってきみに逃げ込んでしまっても、許される?」「ああ。もう十分だ。お義父さんだってきっとそう言うよ」「そう? こんな涙も流せないような僕を、冷たい娘だって嘆いてない? がっかりしてるかも……」「ん? そうかなあ。オレはそうは思わねーよ。兄貴の話じゃお義父さんもなまえが大好きだったんだ。オレも大好きだから、思うんだけどさ。お義父さん、嘆いていねえんじゃねーかな。きっとなまえに幸せになって欲しいって思ってる筈だよ。だって大好きなひとの幸せ、願わねえワケねーだろ」「……すぅ、ありがと」 その夜、彼女はオレを求めた。「本当はこういうの不謹慎かな。やっぱ喪に服すもん? でも、今夜、僕にはきみがどうしても必要みたい。きみに抱きとめていてもらわないと、僕、壊れそう……」「いつも言ってんだろ? 愛し合うことは悪いことじゃない。必要な時に求めあうのは自然なことだよ。おいで。オレの全部はお前のもんだ。必要なら、全部やるよ。オレも、オレの愛も、いくらでもやる。愛してるよ。なまえ」 何度も何度も心の穴を埋めるみたいにオレを求め、そして彼女は眠りについた。その寝顔はいつものような穏やかな寝顔じゃなくて、本当に疲れ切った寝顔だった。(疲れた顔してる。なまえ……。どうか──明日、今日より彼女が癒されているように。毎日少しずつでも、彼女が楽になるように) 疲れた寝顔を見ながらそっと髪を撫でて、ひとり祈った──。34。へ続く。
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