ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「父さん、父さん! ねえ! 父さんっ!」 その声に反応し、目を開けると彼女を見て何か言った。彼女は聞き取ろうと唇に耳を寄せた。「は? また、その名前かよ? 違う! 違うよ! アンタ、いつもその名前を僕に言うけど、誰だよ? それ。……ん? ……あ? それも違う! そうじゃないよ! それはあの女の、アンタの女房の名前だろうが! 僕だよ。なまえだよ。アンタの娘だ……思い出せよ。アンタには善晴の他に、もうひとり子供がいんだよ。冗談じゃねーぞ。そのまま逝ったら許さねーからな! なあ! 最期まで僕を無視して逝くなよ。父さん、なまえだよ、なまえ。何でだよ。何で昔っからそうなんだよ! いっつも知らん顔でさ……何で? 僕を、思い出せよっ!」 面会に来る度、呼び違えられても我慢してたのをオレは知ってる。その度『仕方ねーなー』とちょっと悲し気に笑っていた。最期位ちゃんとして欲しい、そう思うのも無理はない。だが、お義父さんはぼんやりしたままだ。彼女の心中を思い何とかしてやりたかったが。こればかりはオレにも、なすすべもない。彼女が『ふっ』と悲し気に自嘲するみたいに笑った。「やっぱ、分かんねーか。アンタにとっちゃ僕は要らない子だったって事? なあ、父さん? 何で? 僕が、僕が、一体何したって言うんだよ。ねえ、教えてよ、父さん……」 彼女は、そう言ってお義父さんの身体を揺らした。兄貴が傍に寄り彼女に『なまえちゃん』と呼び掛けてから、お義父さんを覗き込み肩を叩いて教えた。「お父さん。なまえちゃん、連れて来たよ。会いたがっていたでしょ? なまえちゃんだよ。お父さん、分かる? お父さんっ! しっかりして! なまえちゃんが来てくれたんだよ! お父さんっ!」「なまえ? 会いたかった……」 小さな声で確かにそう言った。正気に戻ったようだ。驚く彼女を兄貴がもっと近くにと促す。「ああ……なまえだ。なまえ、お母さんを止められなくてすまなかったなあ。お父さんが、ふがいなくて……すまなか……」「父さん? 父さん! おい!」「よ、善晴……なまえを……頼……む……ぞ……なまえを……」「うん、分かった。お父さん。なまえちゃんの事は僕がちゃんとする。安心して。だから頑張ってよ。お父さん……お父さん?」「あ? 親父? ちょっと! 嘘だろ? 父さん! 返事してよ!」 彼女達の呼び掛けにお義父さんが答える事はなかった。泣き崩れる兄貴の横で呆然とする彼女を支えた。兄貴はかなりのショックを受けたようで、それからずっと泣いていた。それとは対照的に、彼女はどこか淡々としながら色々な手続きをこなして行った。
このサイトの読者登録を行います。 読者登録すると、このユーザーの更新履歴に新しい投稿があったとき、登録したアドレスにメールで通知が送られます。