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「ねぇ? 昴?」
「うん?」
病院の受付前の待合で会計を待ってると彼女が呼んだ。彼女はまだちょっとぼんやりしてる。手を握り、返事をする。
「あの、僕ぅ──」
「ん?」
ぼんやりとオレを見る彼女を優しく撫で先を促す。
「死なないの? 半年じゃないの? ……生きて、いられるの?」
「ああ、死ねーよ。あれは嘘。怖い病気じゃなかったんだ。お前、騙されちゃったんだ。あのな、 なまえはこれからもずーーっとオレと生きて行かれるよ」
そうしっかり聞こえるようにゆっくりはっきりと言ってやると、彼女の目が潤み泣きそうに歪んだ。それから、俯いて『心配掛けてごめん。僕、プロなのに飛んだ間抜けだ』とぼそっと言って鼻をずずーっとした。待合の長椅子の列の後方、片隅の席で嬉し泣きする彼女の身体を抱き包んだ。
「心配なんて幾ら掛けたっていい。でも──良かった。本当に良かった」
誰に対してなのか分からないが、心の中に感謝の気持ちが湧き上がる。胸がいっぱいになりオレもちょっとウルっと来た。『うん、うん』と頷いて泣く彼女とふたり、喜びを噛みしめた。
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病院から出ると、彼女の手を取った。その手を指を絡めてしっかりと握り、ゆっくりと歩く。
「なあ、なまえ」
「ん?」
「これからさ、もっと色々な所に行こう。あっちこっちへ一緒に行って、いーっぱい色んな事しよう。うーんと楽しんで、想い出沢山作ろう。な?」
「うんっ!」
彼女が笑顔で見上げる。それが嬉しい。この笑顔を失くさないで済んで良かった。自然と微笑み合う。
彼女がふっと何かを見付けた。
「あ……」
視線を向けると、石神が立っていた。あいつは頭を下げた。彼女が走り寄る。その後ろを、ゆっくりとした歩調でついて行く。
「なまえさん」
「はい」
「結果は出ましたか?」
「はい! 大丈夫でした。あの……半年っていうの、あれ。やっぱり嘘だったみたいです。お騒がせしてすみません」
「良かったですね」
「はいっ! あ、あのぉ……」
「何ですか?」
「口元の怪我、大丈夫ですか? すみません。あの時にちゃんと説明して止められたら良かったんですけど。僕、ボーっとしちゃってて気付くの遅れて間に合いませんでした。すみません」
「貴女のせいではありませんよ」
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