「やだね……離さねーよ。ひとりなんてダメだ」
彼女を離すまいとよりぎゅっと抱きしめる。
「……なあ、昴。僕を愛してる?」
「あ? 愛してる。愛してるよ。だから──」
「だから、尚更ここが潮時。終わりにするのが丁度良いんだよ。お前さ、考えてもみなよ。真綿で首を締められるみたいにじりじりと失う恐怖に晒されるなんて、苦しいぞ。きっとさ、生き地獄だよ。言ったろ? 最期にそんなの見るのやだ。苦しんでる姿なんて見たくねー。僕は幸せな笑顔を覚えていたいし、覚えていて欲しいの」
「じゃあ、笑顔でいるよ。ぜってーいるから」
「ふふ……嘘つき。もう、そんな辛そうな顔してるくせに。ねぇほら、笑って? 僕の好きな昴の笑顔で、見送って下さい。それにさ……昴。君、僕が猫みたいって言ってたじゃん? 知ってる? 猫は最期は消えるもんなの。ふふふ。ぴったりじゃん。ね? もう、傍に居てあげられないけど──愛してるよ。昴、幸せに、ね」
そう、オレを抱きしめてそっと口づけると一瞬の隙を付き、腕の中からするりと抜け出た。焦りながら夢中で腕を掴み必死に言い募る。
「ま、待て。だから、勝手に何でも決めんなよ! そんなの、はいそうですかって納得出来るか! ばか!」
悲しげな瞳で笑いながら、彼女が言う。
「ん、僕が君だったら、きっと同じ事を言うよ。それにさ、僕も出来るならずーっと一緒に居たいよ。だけど、どうにも出来ないじゃん? でしょ? 間違いなら良かったんだけどねえ」
「何、他人事みたいに言ってんだよ。本当に、お前は……。やっぱダメ。お前がそういう時は態度と違って大概、もう余裕のねー時だろ。今までの経験上、そういう時お前は決まって何か、仕出かすから。一人にさせられねー。オレが傍でフォローしないと、ぜってー滅茶苦茶になる」
「何言ってんの? 大丈──」
「大丈夫じゃねーだろ。それこそ嘘つくな。なあ、なまえ。心配すんなよ。オレさ強くなってお前、ちゃんと支える。約束する。オレを信じろ、な?」
「………………」
「何でも二人で一緒に乗り越えるって約束したろ? ん? 一人で無理すんな」
「ばかだな……すぅは。わざわざツラい方に、行かなくってもいいのに……」
「ばーか。ツラい方にだって、地獄にだってな、オレは行くよ。それでもいーいの。二人ならいいんだよ。ほーら、泣き虫ちゃん。 我慢してねーで泣きたい時は泣けよ。お前は、人の事ばっか心配して。んっとに、無理したってオレにはバレバレなんだよ」
ぎゅっと抱いてやると堪えるのを止めたみたいで、わーわーと泣き出した。心配し成り行きを固唾を飲んで見守っていたみんなが、彼女がとどまった事にほぅーっと息をつき肩の力を抜いた。
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