「チビ助、アンタ一人で告知受けたの?」
「……うん。なんかいきなり言われたんだ。僕、疲れがたまって調子が悪いのかなって軽く考えてたんだけど」
「んーそれ、阿久津先生らしくないよね? あの先生ならさ、おチビちゃんだけじゃなく、昴くんや、穂積にも来てもらえって言いそうな気がするのに」
「裕子ちゃんの病院じゃないもん。最初は裕子ちゃんとこに行ったけど、なんか急用でさ。一、二週間休診だって張り紙があって。とりあえずと思って適当に飛び込んで初診で受けたんだ」
「知らない病院に行ったの?」
小笠原が聞くと彼女が頷く。
「うん。そしたらさ、いきなりあっちこっち色々検査されて『うちは即日結果が出ますので』って説明受けたら、あと半年だって……そう、言うんだ……」
「えー、いきなり本人に告知?」
如月が驚く。小笠原がそれを受けて言った。
「個人情報保護法が出来てから変わったんだ。今は、本人に癌告知をするのが主流なんだよ。で、セカンドオピニオンは受けたの?」
「え? セカンドオピニオン? 何? それ」
「他の先生の意見も聞く事を、セカンドオピニオンって言う。大事な事だから、他の専門家にも意見を聞いて納得行く治療をしましょうって制度だよ」
「ううん、受けてないよ。裕子ちゃんもまだ戻らないし」
「なまえ、じゃあ他の病院も行ってみよう。な?」
「……やだ。また違うとこでもう一回、あとちょっとで死にますなんて言われたら、怖いもん。病院なんか、もうやだ!」
「やだってお前……そんな子供みたいな事言ってる場合かよっ! それに病院行かなきゃ治療も出来ねーだろうが」
「そ、それはぁ……そうだけどぉ……。だって……だって! 僕だって怖いんだよっ! 怖いんだ! そりゃあ、昔みたくなんも持ってねーなら、死ぬのなんか怖くなかったさ。でも、今は違うだろ? 大事なもん……失くしたくねーもん両手にいっぱい持っちまってんだぞ。それ、ぜーんぶ置いて逝かなくっちゃなんねーんだぞ? どんだけ怖いと思ってんだよっ! それに、……今だってまだ、信じらんねーのに、んな、色々考えられるかよ! だいたいあと半年、半年しかねえんだぞ! なのに、治療なんて意味あんのかよっ!」
オレの言葉に逆ギレして彼女が怒る。だが、すぐに彼女はハッとして俯いた。
「っ……わ、悪りぃ……これじゃ八つ当たりだ。こんなつもりじゃなかったのに……ちくしょう! 情けねーな。最後ぐらいカッコよく消えたかったのに……えへへ……まいるぜ……ったく……」
彼女は途中から顔を覆い、肩を震わせ声を出さずに泣いていた。
「なまえ……だよな。怖かったな。ひとりでさ、怖かったよな……オレ、付いてなくてごめんな」
そう言って彼女を抱きしめた。
「昴……お前、僕を泣かそうとしてる? ふ、ふっ、ふふ……だいじょーぶ、大丈夫だよ。ちょっと取り乱したけどさ。でもさ、良かったんだ。ふ、良かったよ。僕でさ。君じゃなくて。だって、もしも逝くのが君だったら僕、耐えらんねーもん。きっと狂っちゃうもん。そっちのが、よっぽど怖えーよ。それよりなんぼもマシだ。ふふ…………って事で、お別れだよ」
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