オレも室長も受け取ったものを見て驚いた。『何だこれ』とハモり、続けてほぼ同時に言った。
「り、離婚届?」
「退職届? って何だ? おい」
その言葉にお互いが驚き『え?』と声をあげ、みんなで彼女を見る。
「おい、なまえ。何の冗談だよ?」
オレが彼女を掴み聞くと、彼女はふっと悲し気に笑い言う。
「んー、冗談だったら良かったんだけどねぇ。それは君が知りたがった真実の一端だよ」
「真実の? どういう事だよ」
「僕の……僕の命、あと半年なんだって。それしかもたないんだと。全く、笑えるよ……運がねえってか、つくづくツイてなくってさ。自分でも呆れたよ。 もう、タイムリミットなんて。夢なら良かったのに……。でも、現実だし。なら、こうするしか……しょうがないじゃん」
「は、半年て──そんなん嘘やろ? なあ? お嬢!」
「嘘だったら、良かったんだけど。疲れからの不調かなと思って病院行ったらさ、何だか色々検査されて……で、医者が言うんだよね。あと、半年だって。それからちょっと経ってるからきっともう、半年もないよ」
「ち、治療は?」
衝撃的な話にショックを受けながら何とか言葉を絞り出す。
「治療? すすめられたよ。手術しましょうってさ」
「なら──」
オレを遮って彼女が言う。
「やだよ。聞いたら、手術しても助かる可能性も定かじゃないって言われた。なのに、あと半年もないとこまで来ててベッドに縛り付けられて──すっかり変わった姿、さらして死ぬなんてやだ」
「だからって──」
「昴、言ったろう? 僕は、お前に綺麗なままの僕を覚えて置いて欲しいって。少しでも綺麗で元気なまま、お前の記憶に残りたいんだよ。乙女心だってさ。もう忘れた? 高額当選でもすればなあ。……僕の代わりになるアンドロイドが欲しかったんだけど、やっぱ運が無くて無理だった」
「だから、あんな事言ってたのか?」
「ん。アンドロイドって、僕の最後の悪あがきだったの。でもそれも、ダメだったしな。やっぱさ、諦めが肝心なのかもな。だから、お前もさ。もう僕の事は忘れろよ。んでさ、早くお前を大事にしてくれるフェミニンで綺麗なイイ女見つけて、再婚して幸せになれ。大丈夫。お前、イイ男だからすぐにいいひと見つかるさ。 心配ねーよ 。僕が保証してやる。お前がその気になりさえすりゃあ、すぐ見つかる」
「何、勝手に決めてんだよ! オレは最後まで諦めたくねー。お前と一緒に居たい!」
「わっかんねー男だなっ! 僕だってずっと一緒に居たかったよ。本当に、一緒に生きて行きたかったんだよ。お前の事、うんと、うーんと幸せにしていつも笑顔でいられるようにしてあげたかった。でも──無理なんだってさ。もう時間がないんだ。ごめん、僕、ダメなやつでさ。最後まで大事なひと、悲しませる事しか出来ないみたいだ。でも、僕はお前やみんなの悲しむ顔を見ながら死ぬのなんて、そんなの嫌なんだっ! 我儘でも、何でも、嫌なの! けど、このまま一緒に居たらきっと絶対悲しむよね? そんなの見たくない! 最期位、我儘言わせろ!」
そう言って出て行こうとする彼女。絶句し、ワンテンポ遅れたオレに代わり室長が止めた。
「待って。待ちなさい。チビ助。せ、せめて頭を整理する時間を私達にちょうだい!」
その言葉に立ち止まり、必死で言う室長を見てふっと悲し気に笑い納得するように言った。
「ま、突然じゃ、それもそうか。僕だって未だに受け入れられないもんな……」
彼女は出て行くのをやめ、椅子に腰掛け項垂れた。
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