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「やーだねぇ。僕そんなめんどくせー事、やりたくねーよぉーだ。藤守さんがやればいいだろ」
「そうか、言うたら確かにちょっと面倒かも知れへんね。ほな、俺がやるわ。すまんかったなあ」
「え?」
予想外の反応に驚き彼女は『何でそーなるんだよ。我儘言ってんのに』と口の中でもごもごと言った。
そこへ小野瀬さんが入って来た。
「はい、穂積。頼まれてたのあがったよ。あ、おチビちゃん、珈琲淹れてくれる?」
彼女はいつもと違いツーンとして言った。
「やだよ。ここは喫茶店じゃねーもん。ラボで飲めばー?」
「おや? おチビちゃん、ご機嫌斜めだねえ」
「そうなんですよー。小野瀬さん。最近チビ、ツンデレキャラなんですよー」
「へえ。そうなんだ。如月くん、君またいじめたんじゃないの?」
「違いますよー」
「しかしなんやねえ。日頃、我儘言わへん嬢ちゃんの我儘ってのも、新鮮でええねえ。ほんまに妹に甘えられとる気がして前よりもこう、身近になった気がするわ」
「確かに我儘言われると甘えられてる気がして、可愛くていいよなあ」
「はあ? 何、言ってんだよ。藤守さんも昴も。変なの!」
「ははは。変か。でもそうだなあ。チビは今まで我儘を言わな過ぎだったからな。もっとじゃんじゃん言って良いぞ」
「な、明智さんまで、何言って──」
「俺、一人っ子で妹いないけど、いたらこんな感じ何だろうね」
「そうそう、こんなもんですよー。小笠原さん。機嫌悪いと当たられたりねー。ま、可愛い所もあるんですけどねー」
「あ、あれでしょ。如月。それで喧嘩になるんでしょう? で、大将に怒られたりして。違う?」
「えーよく分かりますねー。室長」
「分かる、分かる。ま、でもあれよ。お父さん達はチビ助わんこが、きゃんきゃん鳴こうが全然へっちゃらよ」
「そうだねえ。おチビちゃんの我儘くらい、かわいいもんだからねえ。幾らでもきいてあげるよ」
「で、チビ助わんこは何があったの? ほら、言ってごらんなさい。おチビがお父さん達を誤魔化そうなんて百万年早いわよ。全部吐き出しちゃいなさいよ」
そう言う室長を彼女は、真剣な目で見返し言った。
「本当に? 本当に聞きたいの? 真実を知る事が良い事ばかりとは限らないよ? 聞かない方が良かったって事もある。知らない方が楽な事もある──」
「ふっ、チビ助。お前には俺達が、そこいらのもやし男みたいに、真実を恐れるように見えんのか? だとしたらお前、アホたれもいいとこだぞ」
「……はあぁぁ。せっかく人がしっちゃかめっちゃかにして嫌われてから、と思ってんのに。ばかだな、みんな。素直に嫌ときゃあ後々、楽なのに。どうしても真実が知りたいなんて……ふ、そうか、僕達、刑事だもんな。真実は追い求める。それが刑事の性、仕方ねえのか……」
そう言うと彼女は机の鍵をスーツのポケットから出し、鍵を開け封筒を二通、取り出した。一通をオレに、もう一通を室長に『はい。地獄への招待状。ふふ』と笑いながら手渡した。
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