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彼女はますますおかしくなった。オレ達や小野瀬さんや周りの者にらしくもなく、我儘を言い辛辣な事を吐くようになった。まるで、わざと嫌われようとしているように思える。彼女が、無理しているのは恐らく間違いない。現に一人の時、疲れたようにため息をついている姿を目撃されている。
「彼女、あからさまに変だ」
小笠原が心配そうに言い出した。
「ああ、わざと嫌われようとしている感じがするな」
「あ、明智さんも思ってました? 俺達もそう思うって話してたんですよ。ねえ、藤守さん」
「そうや。ここんとこ、あまりにもエンジェルちゃんらしいないやろ。なんや無理しとるで? こないだ一人でため息ついとったしな」
「あのくじを買い始めた頃から、おかしくなった。一柳さん心当たりないの?」
小笠原に聞かれるが、オレにも答えられない。
「分からねー。何か隠してる筈だが、口を割らねーし」
「一柳さんにも言わないんですか? それは、厄介ですねー。チビは、そうなるときっと頑として口を割りませんよ」
如月がため息をつく。室長がそれを拾いぽつりと言う。
「って言うより、言えないのかも知れないわね」
「と、なると何かよほど悪い事が起きてるんだろうな。何だか分からないが、あいつの事だ。俺達の事を考えて、敢えて嫌われようとしてるのかも知れない」
「ああ、それは明智さんの言う通りかも知れんね。あの子はそういう子や」
「とにかく、あのアホの子二号が色々我儘を言ってもみんな乗らないように。間違っても嫌う素振りをしないように。あの子がわざとやってるにしても、本音では嫌われるの怖い筈だから。あの子、傷付くわよ。きっと」
「分かってますって」
「あら、如月。アンタが一番心配なんだけど?」
「えーひどいなー。俺だってからかいはしても、チビは好きだしかわいいんですよー。あ! 良い事思い付きました。あの、チビが嫌われようとしてるなら逆に[好き好き]って言ってやったらどうですかね?」
「好き好き、か?」
「そうですよ。明智さん。我儘言ったり、悪態ついても[俺達はお前が大好きだぞー]って示してやるんですよ。ほら、いつだったか小野瀬さんが『北風戦略より太陽戦略のが女の子には効果がある』って言ってたじゃないですかー。だから、太陽戦略ですよ。チビの凍えた心を俺達の愛で溶かすんですよ」
「ああ、翼が昔アニに脅かされて合コンに行った時に、小野瀬さんが北風と太陽の話になぞらえてそんな事を言っていたな」
「うっ、明智さん、うちの兄貴がすみません」
「いや、藤守。昔の事だ。気にするな」
「そうねえ。今チビ助を孤立させない方が良い気もするし、他に方法もないしね。やってみるか。にしても、アホの子二号は、相変わらず世話焼かすんだから。しょうの無い子ねえ」
それから、オレ達の[太陽戦略 好き好き大作戦]が始まった。
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