「何?」
「だから言ったじゃん。アンドロイド欲しいって。andro(人間)+ido(~に似たもの)だよねぇ。なら、なまえido? 僕に似たもの。そうだー大金が当たったら、昴ido? も作ろ。だって、ひとりじゃなまえidoがかわいそうだもん」
「だもん、じゃなくて。何でそんなの急に欲しがるんだって、聞いてんだよ」
「んー? やっぱさー愛するダーリンには、綺麗な僕をずーーっと覚えててもらいたいじゃん? それが乙女心ってものよー。んふふ……って恥ずかしい事言わせるなあー」
一人でノリツコミして『あ、BIGってどうやって買うんだ? 調べなきゃ』とまたタブレットを見始めた。
「なあ、なまえ、お前さ、何かオレに──」
「きゃーー! 西島くん発見ー! そっか。CM、西島くんだもんねぇ。あ、CMの動画だ。見なきゃ見なきゃー♪ 西島くぅん♪」
西島くんに盛り上がり、オレの話は聞いてねー。いつも以上に『キャーキャー』言いながら繰り返し見てる。
(つーかこれも聞くなーって事なんだろうな)
小さくため息をつき、その時は聞くのを諦めた。何故ならなまえは頑固なとこがある。下手にしつこくするとますます、貝のように押し黙り黙秘する。タイミングと、方法を考えないと逆効果になり兼ねない。もしかすると、彼女の黙秘を*落とす方が、*カンモクする*マル被を落とすよりもはるかに難しいかも知れない。それくらい手ごわい。
● ○ ● ○
やっぱり、おかしい。気紛れ程度に言い出した事かと思ったのにあれから彼女は、くじというくじを買い捲っている。はずれ券の山にため息をつき、また買いに行く。さすがに、周りの連中も『チビはどうしたんだ?』『らしくない事をしてる』と心配し始めた。でもオレが聞いても、室長が聞いても『へへへ』と笑って誤魔化し逃げ出すと言った具合だ。
「何、隠してんのかしら。あの子……こうなると、口を割らせるのは大変なのよねえ。はあぁぁ。何か嫌な予感がするわ。心配されてんの分かってる筈よ。それでも言わない──言えないのかしら? いずれにせよ、あの子が頑なになればなるほど、悪い事の気がする。じゃなきゃ、きっともう打ち明けてるわよ」
心配気に言う室長とオレも同意見だった。
(まいったな。……あの日だな。間違えねー。あの日を境に何だか妙なんだ)
少し前、いつからそうしていたのか、彼女がぬぅーっと玄関に音も立てずに突っ立っていた事があった。車に置き忘れた荷物を取りに行こうと、玄関に行ってぎょっとした。転んだのかガーゼやら絆創膏をあっちこっちに貼ってた。真っ青な顔をして、まるで幽霊みたいだった。『その傷、どうしたんだ?』と声を掛けてもぼーっとして反応が無い。肩を揺するとハッとして『悪い。ちょっと具合が悪い。先に休む』とだけ言って寝室にこもってしまった。きっとあの日、何かがあったんだろうと思う。
それを室長に言うと思案顔でもう一度、ため息をつき言った。
「なら、その時何か良くない事があったのね。またひとりで抱え込んで苦しんでるのか……。あの子ったら。さて、どうしたもんかしらねえ。困ったわねえ」
「あいつの事だから、言えばオレ達が傷付く事なら絶対言わなそうですよね」
「そうね。それなら、きっと黙るわね。私達が傷付いたり、悲しんだりする事、何かしら……」
その言葉に一瞬、ある事が浮かんだ。多分、室長も思い浮かべた。だが、考えたくもないその推測に『まさか』と思わずハモり室長が『ね』と続け、打ち消すようにオレ達は頭を振った。
*落とす…自供させること
カンモク:完全黙秘
マル被:被疑者
.