酒と料理が出ると乾杯をし、めいめいリラックスして楽しみ始めた。
　あのひとは、よく気の付くひとだった。さりげなくみんなに料理や酒を取り分けたりしている。愚弟がええ子やと言ってたのがよく分かる。
　みんなの酒もだいぶ進んだ頃、穂積がマイクを持ちあのひとを誘った。

「チビ助、歌うわよー。何が良い？　アンタ、洋楽イケたわよねえ。洋楽はどう？」
「じゃあさ、QUEENのWe will rock you は？　今CMでもやってるじゃん」
「よーし。それ行こう！　チビ助、ノリノリで行くわよー」
「おー！」
「We will we will rock you～♪ Buddy you're a young man hard man～♪」
　穂積とあのひとはノリノリで歌った。なるほどいい声をしている。あのひとは、人気があるようでみんなに歌を誘われていた。酒を飲みつつ、みんなと洋楽からアニメ、演歌まで色んなジャンルの歌を実に楽し気に歌った。
　合間に『あの、アニメが好きと聞きましたが、ガンダムを知ってますか？』と話し掛けたら『多少ですけど』と名シーンを物真似してくれた。『ガンダムで何か歌ってくれませんか？』と言うと［哀・戦士］と［INVOKE -インヴォーク-］を歌ってくれた。俺は気分が良くなり、つい［燃え上がれガンダム］［Ｚ・刻をこえて］［水の星へ愛を込めて］［嵐の中で輝いて］［JUST COMMUNICATION］等、次々に入れてしまった。あのひとはイヤな顔をせずみんな歌ってくれた。だが、小野瀬と穂積から『一人占めし過ぎ』と文句が出た。しまったと慌てあのひとに『すみません』と謝った。不快な思いはさせたくない。

（あかん。俺とした事が、調子に乗ってしまった。失敗した。ガンダム好きの変なヤツやと嫌われたやろうか）
　内心、ちょっと落ち込んだ。
　だがあのひとはふわりと笑った。

「ふふ。気になさらないで下さい。僕も沢山歌えて楽しかったですから」
　そう言ってくれたのだ。

（ほんまええ娘やな。ガンダムも大丈夫やった。こんな事滅多にない。今までの経験上、大抵イヤな顔しよる。理想的や）
　あのひとは歌も、物真似も、上手かったが、褒め上手だった。おかげで俺を含めた皆が、気分良く楽しい時間が過ごせた。

「チビ助、そろそろあれ、歌いましょう？」
　その言葉で穂積とアニメの歌？を歌った。

「優しいまま悴んだ記憶～♪」
　間奏の合間にあのひとが言った。

「いやーん。お父さんってば。その歌声、甘ーいー。色気もスッゴいー！　ヤッバーい。録音したーい。もうクラクラ、悩殺されるぅ。はうー」
「ああ？　フッ、じゃあもっと甘くしてやる。メロメロに悩殺されろ」
「おやおや、意味深な会話だねぇ」
　小野瀬が言い、二人は再び続きを歌い出す。

　さっきの洋楽ロックと違い、見つめ合ってかなり意味深に見えた。
もしかして穂積は手を出してるんじゃないかと思えるほどだ。

（穂積のヤツ、けしからん）