● ○ ● ○
その日の夜、互いの熱を感じ合った後でどこかボーッと自分の思考の中に行ってるみたいな彼女を腕に包み聞く。
「何、考えてる?」
腕の中で彼女がポツリと口を開く。
「んー? 今日の事とか?」
「今日の? 何?」
「でも、言うと怒りそうだからなー」
「怒らねーから、聞かせて」
「あのさ今まで僕は……。多分、長い間[正当な言い訳]を探して生きて来たんだ」
「正当な、言い訳?」
「そう、大義名分っていうのかな。都合の悪い事も正当に見えるような。僕は、ずーっと死ぬ事の大義名分を探して生きて来た気がするんだ」
「…………」
そのとんでもねー発言に口を挟んでしまいたくなるのを、グッとこらえて続きを聞く事にする。
「室長が前に言ったろ? *『いなくなっても[どってことはない]と思っているように見える』アレは図星だったんだ。図星所か、もっとだな。僕は、誰かを守りながらどっかで[もし、これで死んでも仕方ない]って思ってたんだ。そりゃあ、仲間と楽しんだり、小さな幸せも感じたりもしてた。でも、何ていうか。それとは別に自分の中に[どっかが壊れちゃってる僕]がいるのも、いつも感じてたんだ。バイクに乗ったり、仲間と遊んで笑うのを、冷めた目で眺めてる自分もいてさ。[本当は誰も信じて無いんだろ?][生きる事はツラいだろ?][捨てちゃいたいって、認めちゃえよ]って僕に言う、そんなヤツを抱えてた。……僕には、生きる事は重かった。投げ出してしまいたくて、仕方なかった。けど、ばあちゃんに『強く生きろ』と死に際に言われたあの時から、人の命を踏み台に生かされた僕は[強く生きる]事が使命になった。投げ出すならそれなりの理由が必要だったんだ。それは、ばあちゃんの事を忘れてる間も、ずっと僕を縛ってた。[誰が聞いても納得するような、僕自身も納得出来る位の、理由]僕は、身勝手にもずっとそれを探してた気がする。けど……」
言葉を区切り、愛し気にオレの両頬を包む。
「けど、いつの間にか変わってた。今日、感じた。僕は[死ぬ事]の言い訳を、もう探してない。死ぬ事の大義名分を見つける前に[生きる事]の大義名分を見つけたんだ。僕は、君を守り笑顔にするために生きるんだ。今まで通り誰かを守ったとしても、僕は生きるよ。何か、うまく言えないな。つまりね、君は、きっと僕の中のねじまがった壊れた僕にも、ちゃんと手を差し伸べて癒してくれたんだ。そんでさ生きる意味をくれたんだよ。……ありがとう。僕さ、結構トラブルメーカーみたいだし、本当の僕は弱いからまた自信無くなって揺れたり、迷って分からなくなったり、僕の中のひねくれ者が暴れたりするかも知れないけど、僕、がんばるから。これからも迷惑や心配掛けたりするかも知れないけど、でもがんばるから。見捨てないで傍にいて欲しい」
そう彼女は言った。
*
1。 Ꮲ38
世田谷切り裂き事件より
.