「弟は、アンタが内偵中にアンタ達を見掛けた事があるらしい。でね[あの姉があんな事する筈がない。あの男が何かしたんじゃないか。きっと、姉をそそのかしたんだ]って、そう思い込んでたみたいね。ほら、あの件はマスコミにも散々取り上げられたでしょう? ヘビ女の家族も相当執拗な取材責めにあったようで、母親が倒れたんですって。それでそういう諸々の原因をアンタに責任転嫁させて恨んで命を狙った……という訳」
石神がオレに謝る。
「すまない。私が一柳に頼んだせいで」
「いや、仕事だからな……」
そう答え動揺を見せないように平静を装いはしたが、正直内心では多少ショックだった。
ずっと警備部でやって来たオレは、八つ当たりでグチグチ当たられた経験はあっても、こんな風に加害者家族に命を狙われる程に恨まれた経験はない。ましてや、そのせいで大事な人まで危険に晒してしまうなんて……。
「フンッ、下らねーなー」
下から声がして寝ていると思っていた彼女が、むくっと起き上がった。浅い眠りだったようで、話し声で起きたらしい。起き上がる途中で、オレの頬にサッと口づけて『気にすんな。すぅは悪くない』とオレだけに聞こえる声で囁いた。びっくりして彼女の方を見るとまるで[大丈夫、僕は君の味方だよ]とでも言いた気にふっと笑った。
「ねぇ? お父さん。僕のかわりにガッツンと言ってくれた?」
「あ?」
「ざけんじゃねえ! てめえのは逆恨みつーんだよってさ。悪い事したら捕まんだよって言ってくれた?」
彼女が言うと眼鏡を上げながら石神が答えた。
「それに関しては、十分過ぎる程に……。穂積さんは、相変わらずですね」
「フン、当然だろ。俺の大事な部下狙いやがったんだぞ?」
そう答える室長に彼女が『ふふふ……』と笑う。
「やっぱりお父さんは分かってるぅ! えへへへ。さすがお父さんだ。でも僕、行かなくて良かったかもー」
石神が『何故です?』と聞くと、彼女はニヤリと口角を上げちょっと不穏な笑い方をした。
「何故ってさ、大切なひとにあんなんされたんだよ? ケガが無かったからまだ良かったけどさ。それでも僕の心情的には八つ裂きってか、ボコボコにしてやりたいね。おとしまえつーかさ。それに、つけ上がられても困るしねぇ。でも、やっちゃうとマズイじゃん? やっぱりさ。一応僕、もうお巡りさんだし? ま、そんなアホ野郎が、何回来たって傷付けさせやしないけどねぇ」
そう言って、こちらを向き妖艶な顔と手つきでオレの頬を撫でた。それから愛し気な表情にふっと変わり、オレを見つめながら微笑んだ。
「大事なもんを手にするってさ、奇跡みたいなものだよ。……僕はねぇ、手にした大事なもんはきっちり守る主義」
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