ようやく興奮状態から覚めて来た彼女はポカーンとしながら、側にいた室長とオレに『何?』と一言聞いて来た。オレ達も分からないので王子達の消えた方を見ながら、室長と二人『さぁー?』と答えた。
三人で佇んでいると皆がワラワラとやって来てボカーンとしたままの彼女に『大丈夫?』とか『びっくりした』とか『無事で良かった』とか色々話し掛けて来た。
父さんと楓さんもやって来てオレを救ったお礼を言ったが、彼女は何となくボーッとしていて頭をかろうじて下げただけだった。
いつもそういう受け答えはきっちりする彼女のその様子に、父さんが心配して肩に手を置き顔を覗いた。
「なまえちゃん、大丈夫かい? 昴。なまえちゃん、どっかぶつけたリして無いかい?」
反対から覗きながら声を掛ける。ボーッとしながらこっちを見る彼女に様子を聞くと『昴、僕……疲れた。スッゴく、眠い……』とポツリと言った。
思えば、彼女は今朝からずっと緊張してた。所謂緊張の糸が切れた状態かもと思い、彼女のかたわらで脈などを診ていた裕子先生に説明する。
「そうかも知れないわね。楽な格好に着替えて少し休みましょう」
そういう話になりよろよろしてる彼女を抱え、控え室に連れて来た。控え室で着物を脱がし見ると帯と着物、その下のぐるぐるタオルが損傷してた。家から持って来たぐるぐるタオルは仕事用に、オレが細工して作った物だ。中にツテを使って取り寄せた防刃加工した布を入れてある。完璧では無いし、多少着心地が問題ありだ。それでも少しでも防げるならと用意し、彼女はオレの気持ちを汲んでくれた。最近では、仕事中はいつもこのタイプを使っていた。
昨夜(又ウェストが細くなったな)と何となく思い、タオルで足らないと困るから予備で用意したんだ。着付ける時、彼女が『ぐるぐるタオルのが、簡単だ』と言うので着物の厚み調整に着けた。
もししていなかったら、今頃ナイフが彼女の背中に刺さってたかも知れず、不幸中の幸いとはこの事だ。
途中、みんなが残っているのを耳にして挨拶に立つ事にした。
戻って来ると彼女はメイクを落とし終えていた。やっぱり、ちょっと顔色が悪く疲れた顔をしている。オレを待っていたようで、顔を見るなり聞いて来た。
「ねぇ……もー寝ても良い? ほんのちょっとでも良いから、寝……たい。つーか、もー……無……理……くーっ……くー……」
コテンと壁に倒れ、言い終わるか終わらないかという所で、プッツンと電池切れを起こすみたいに寝てしまった。よっぽど疲れたらしい。ズルッと控え室の畳に転がりくーっ、くーっ、眠る彼女を引き寄せ膝枕で寝かし、上着をそっと掛けた。
こんなに一生懸命尽くしてくれる彼女が本当に愛しく心の底から大事に思う。
さっき彼女が興奮して[僕の愛情に勝てるヤツなんていない]と言ってたが、まさにその通りだろう。彼女はオレにいつでも、惜しみ無く愛情をくれる。それがどんなに幸せなことか、身に沁みて感じる。
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