和気あいあいと楽しい時間はあっという間に過ぎて行きそろそろ、王子達と総理は引き上げる事になった。護衛についた松永さんと目が合うと一瞬だが笑ってくれた。
オレが微笑み返すと隣で彼女が松永さんに頭を下げた。ただそれだけの事ではあるが──されど、だ。[オレの妻はよく気が付く]とちょっと誇らしい気になる。
二人で総理や王子達、それから他の来客に挨拶をしてると父さんがオレを呼んだ。そちらに行く前に、声を掛けた時だった。
彼女が何かに気を取られた。ある方向を、じっと見つめている。
何を見てるのかと同じ方向に視線をやったが、分からなかった。
「どうかしたか? 何かあった?」
「ん……ちょっと……。視線をね。でも、ハッキリしない。勘違いかも……あ、お義父さんが呼んでる。行って来て」
「ああ……」
気になりつつも、その場を離れ父さんの元へ向かった。小さく気になったその事は、挨拶や来客達へ受け答えしてる内にオレから抜け落ちて行った。式の後で普段より多少浮かれていたのかも知れない。
「すぅーーっっ!」
彼女が慌てた声で叫ぶのと、ざわめき立つのが、ほとんど同時だった。後方で異様な雰囲気を感じた。同時に王子達や総理が松永班の連中に、父さんが桂木さんに庇われるのを視野の片隅で捉え緊迫感を胸に持ち、振り返った。うちのメンバー達が叫びながら、こちらに駆けて来る映像と、黒い服のホールスタッフが、白いものの後ろにチラリとスローモーションのように見えた。
「どけぇーっ! 一柳ぃい! 死ねーぇえぇ!」
黒服がものすごい形相で叫び、白いものがオレに絡みつく。
絡みついた白いもの、オレの盾になり、オレと黒服の間になった白いもの、それは紛れもなく彼女で──。
それを認識するまで多分、ほんの一瞬だった筈だ。認識したと同時にドンと衝撃を感じた。
黒服は片手で、彼女の白無垢の襟首を掴み、後ろへと引き剥がそうとする。だが、彼女は離れまいと、必死でオレにしがみつく。
室長が黒服を投げ飛ばし、後藤が捉えたのが見えた。
彼女を腕に抱きながら、何か考える前に震えが来た。
(何だ? 何が起きた……?)
震えを止める余裕もなく声も出ず、状況を把握しなければと頭の片隅で思うのに、頭は真っ白になる。
そんなオレの背を彼女の手が、優しくポンポンと叩く。
「すーぅ、ケガはない?」
混乱する頭に、いつも通りの彼女の声が届くと、漸く呪縛が解かれたようにカラカラに渇いた喉から先ず声が出た。
「なまえ? なまえ!」
オレの動揺ごと全て包むような声で彼女が言う。
「大丈夫、大丈夫だよ」
「けどお前、ドンって……衝撃が……」
「ん、ダーリン。やっぱりツイてた。初夢、当たったよ。ほら、見て」
言われてそちらに目をやる。彼女の背の、帯で高くなった位置にナイフの柄が刺さってた。
「あのね、あのね、一応ちゃんと刃渡りも確認して、長さから考えて帯の所なら行けそうかなって。計算だったんだけどぉーこんなにうまく行くなんて思わなかったー」
興奮気味な声に変わった。
.