おろおろする彼女の傍に行く。彼女はかなりの緊張状態で、泣きそうに目を潤ませてる。手を握ると震えてる。
彼女がこんな風に弱い部分や頼りない部分を見せるのは、相手がオレだからに他ならない。これがいつも強いなまえの一部。[素]の部分だ。
一緒に暮らして長い時間を過ごす内に、漸く自然に[自分]をさらけ出してくれるようになった。
勝ち気な所もある彼女は、誰かの為にそれが必要ならば己を奮い立たせ強くなる事が出来るひとだ。だがその反面では、繊細で優しく、実は怖がりだったりもする。
オレが守ってやりたいひと。
オレはこのひとを、これからもずっと守ってくんだ。
「なまえ、大丈夫だ。お前はもの覚えは早い方だ。落ち着いたら直ぐに覚えられるって」
「でも、頭に入って来ないの。ドジったら一柳はあんなの嫁にしてて、笑われるよ。昴やお義父さんに恥かかせちゃう。それに総理にも。に、日本の恥になるよ」
「お前、プレッシャー感じ過ぎ」
抱きしめてなだめながら言う。
「大丈夫。オレの大事なひとを、誰にも笑わせたりしない。朝も言ったろ。お前が困った時は必ずオレがフォローする。お前は頭が良くて気が利く分、余計な事まで見えて心配になっちゃうんだよなー。でもさ、一つ大事な事を忘れがちだ。お前にはオレがついてる。一人じゃないの。だから大丈夫だ。信じられないか?」
「…………ううん、信じられる。昴は僕を助けて、僕が昴を助ける。昴と一緒に今まで、そうやっていろんな事を乗り越えたんだよね。──そうだった。僕はもう一人じゃないんだよね。大事な事、忘れてた」
「思い出しましたか? 姫。ふふ。なら良かった。それに、考えてみると、楽しそうじゃねえ?」
「楽しそう?」
「ああ、だってさこんな経験、何回もしないだろ?」
「……うん」
「祝詞はどんな事、言うのかなーとか。三三九度の酒って旨いのかなーとか。知らない事、知れるチャンスじゃねーか」
「ふふ、三三九度の酒の味なんて考えてもみなかった。発想の転換か。そう考えたら、なんかワクワクして来た」
彼女に笑顔が戻る。
「な? 楽しもうぜ。式の流れは今からオレが教えてやるよ。オレに教われば姫は、あっという間に覚えちゃうぞ」
「昴、何か──自信満々だね?」
彼女がちょっと小首を傾げる。
「ん、だってな。姫はオレが大好きだからオレの言葉は、何よりも届くだろ?」
「ふふ。そーかも」
「さてと、姫が覚えたらご褒美でもあげようかな。何が良い?」
「じゃあねー。ちゅう、とか?」
「ん? ちゅうはご褒美じゃなくてもしてるだろ? はっはは。お前は、欲がねーなー。じゃあ、さ。ご褒美の前に……頑張れのちゅうだ」
彼女にキスをする。さっきとは違い、もう震えも止まり顔の強張りも治まっていた。
(これならきっと大丈夫)
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