彼女がそっと小声で聞いて来る。
「何? 昴、聞いてる?」
「いや、何も聞いてねーけど……アレってまさか──」
「遠くてよく見えないな……あっ、あれ、もしかしてロブたん?!」
「似てねーか?」
「に、似てる……マジ? だってアルさんが、説得したから大丈夫って言ってなかったっけ?」
彼女とコソコソと話してると、遠くから大きな声が響いた。
「あーいた、いた! 昴たーん!」
「あぁ……昴をああ呼ぶって、やっぱりロブたんに間違いない……」
「だな。アルさん説得に失敗したみてーだな」
「あは、あはは……ロブたん達が来てくれるのは嬉しいけど、おおごとになって来たねぇ……」
彼女がちょっと引きつり気味に笑う。
そうこうしている内に一行がやって来た。総理と松永さんまで引き連れて、ウィル王子、キース王子、グレン王子、ジョシュア王子、エドワード王子にロベルト王子とアルさんはじめとする執事達、全員でお出ましだった。
笑顔で手を差し出した総理と握手する。
「いや、一柳くん、なまえさんおめでとう。これは綺麗な花嫁さんだ」
そんなやり取りの後で、総理がこっそりと耳打ちして来た。
「いきなりで申し訳ない。実は、各国の王子達との親睦を兼ねた対談が一月中に決まっていたんだが、日本の正月を体験されたいとご要望でね。急遽、前倒しに来日されたんだ。それで皆さんが、日本の婚礼も是非とも見たいと仰られてね……。いきなりでそう、うまく婚礼も無いだろうと困っていた所で、君達の写真撮りがあるのを思い出して、お連れした次第なんだよ……」
「婚礼? ……ですか?」
総理の言葉に引っ掛かり聞き直す。その時、執事のアルさんが何やら父さんの所へ行き話してるのが、総理の後方に見えた。
ロベルト王子が、彼女に『君、なまえちゃん?』と確認する声が聞こえ『は、はい……お久しぶりです』と答える声に続いて王子達に『別人のようだ』とか言われてるのが聞こえた。王子達は、花嫁衣装が珍しいらしく『これは凄い』と彼女を囲みしげしげと眺めていた。
そちらに一瞬、気を取られていると総理に呼び掛けられた。
「一柳くん、実は折り入って頼みがあるのだが──」
総理が本題とばかりに話し出した時『わっ』と彼女の驚く声が聞こえ見ると、ロベルト王子が彼女を抱きしめていた。
「なまえちゃん、とても綺麗だ。おめでとう!」
彼女はちょっとパニック気味に焦り『あわあわ』言ってる。
(総理の話しも聞かなくてはならないが、早く助けてやらねーと……)
彼女を気にするオレの状況を総理は汲んでくれたらしい。
「一柳くん、先に一柳さん──お父上と話して来るから、後から落ち着いたら二人で来てくれ」
言い残し、父さんの元へ行ってしまった。
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