似顔絵を描いてもらったり、市場で買い物を楽しんだり……。ホテルのキッチンで二人でサンドイッチを作り、パリジェンヌを気取った彼女とランチをした公園。一緒に見て歩いた寺院や美術館。カフェでのお茶。街を眺めながら二人で寄り添い歩いた道。レストランで彼女が目を輝かせた豪華で旨い食事。夜、お洒落をして飲みに行ったバー。夫婦になってから初めて彼女を愛し抱き合って眠ったホテルの部屋。
場所や物、人。彼女の表情や……味、匂い、音、温度。五感から伝わりオレの心に、染み込むように刻まれたそのひとつ、ひとつのもの──。どれもが忘れられない。またふたりの想い出が、沢山増えた。
オレは海外の各国に仕事でもプライベートでも、何度も行ってる。だけど、それとは全然違った。あんなに楽しい旅行は初めてだった。
(また、行きてーな。旅行。直ぐに海外は無理か……。ま、どこでも二人なら楽しいだろう。今日は白無垢だから……。着物第三弾で、京都で舞妓体験ってのも良いかもな。舞妓姿の彼女とゆっくりと市内観光、夜は温泉でしっぽり。なんてのもおつだ。舞妓姿も似合うに違いねーし)
オレは頭の中で話をどんどん展開させて、ひとり考えに耽ってた。
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どうやら長い事、黙ってたらしい。彼女が袖を引っ張った。
「どうしたの? やっぱり昴も僕が、ドジをやらかしそうだと思う?」
その声に見れば、不安気な瞳と出会う。
「ん? 違うって。結婚式や新婚旅行の事なんか、思い出してたんだ。楽しくてさ、良かったよな。でさ、また旅行でも行きてーなって考えてたんだ」
「ああ、結婚式と新婚旅行か。そうだねぇ。最高だったね。ふふ……旅行かー。また行きたいな」
「ん、旅行また行こうぜ。後で計画しよ。なあ、今日もさ、そういう最高の一日にしようぜ」
オレの言葉に、彼女は『うん』と頷き漸く柔らかく笑った。
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式場に移動し係の人に手伝ってもらいながら、彼女のメイクと着付けをする。
「まあ、ご主人様はメイクとか、そういった関係のお仕事じゃございませんの?」
『ええ』と係の人に返すと目を丸くされた。
「私はてっきりそういう関係の方かと思いましたわ。プロみたいにお上手ですもの。何かご経験が?」
「ちょっとメイクの仕事をしてる知人に手解きを受けまして……」
実は、彼女を自分の手で綺麗にしてやりたくて、ミイコの親戚のプロのメイクアップアーティストである通称モモちゃんこと桃瀬達也さんのレッスンを受けに通った。売れっ子の多忙な人なので、通常なら間違いなく断られる所かも知れないが、またミイコが粘ってくれて特別に引き受けてくれた。まあ、ミイコもちゃっかり一緒に参加し習ったんだが。
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