彼女は、目をうろうろさせて明らかに困ってる。目の動きなどから、予想すると彼女は今、打開策を考えているんじゃないかと思う。
(面白いなぁ。
なまえは、からかうと面白い。次、どう反応するだろう。些細な事だが楽しみになる。ふふ……考えてる、考えてる。こんな
なまえも可愛くて好きだ。フッ、これだからオレは、チビバカと言われるのかも知れないな……)
と、彼女がいきなり叫んだ。
「梨汁ブシャアーーッ! ふ*しっいー! ナッシィーッ!」
お気に入りのゆるキャラ、ふ*っしーの真似をし始めた。ふ*っしーのように黄色じゃなく、赤い顔をして。そのいっぱいいっぱいの返しに、おかしくなって来る。
「ダメだなっしーっ! やめてなっしーー!」
ふなっ*ーの真似で言う彼女に、プッと肩を震わせ笑ってしまう。笑うオレを見て、ますます恥ずかしそうな彼女。まるで、恥ずかしさを誤魔化すように、酒を取りグビっと飲んだ。
その光景に、オレだけじゃなく室長と黒澤も『あははは……』と笑い出す。
「本当に、チビ助は見てて飽きねーな」
室長が言うと黒澤が頷き『もっと物真似をして下さい』とリクエストした。彼女は飲みながら、思い着いたのを真似た。おかげで、楽しい雰囲気の中で酒を楽しむ事が出来た。
その内に黒澤が、彼女の手帳を見出し言った。
「結婚って、準備が大変なんですねぇ」
「うん、結構ねぇ。聞いた話だけどさ、忙しさや疲れも手伝ってけんかになっちゃうカップルも多いってよ。あと、マリッジブルーになるお嫁さんもいるって。ウェディングプランナーさんが、言ってたよ。ねぇ?」
「ん、言ってたな」
「そういえば……珍しく、お前達もけんかしそうになったもんなあ」
室長が言うと黒澤が驚いた。
「お二人でも、けんかするんですか?」
彼女が片眉を上げ、参ったなというような顔をして答える。
「するよー。たまーに、ね。だって、別々に生きて来て違う所もさ、やっぱりあるじゃん? 長く一緒にいれば、たまにはぶつかる事もあるよ。そりゃ愛が消えちゃうようなけんかは嫌だけどさ。ヘンにお互い遠慮するのも嫌じゃん。だから、いーぃの。ちゃんと仲直りもするもん。ねー、昴?」
そう言う彼女に笑顔で返す。
「だな」
「フッ……ま、良いんじゃねえか。チビ助は、遠慮するから本当に仲良くなったヤツとしか口げんかも出来ねえし、な。仲直り出来る犬も食わねえけんかならな」
そんな話をしつつ酒を飲み、隣で笑う彼女を眺める。彼女が数ヶ月後には、オレの花嫁になると思うと楽しみで仕方ねー。ニヤけそうになるのを堪え酒を飲む。忙しい合間のつかの間の休息に癒された、そんな日だった──。
26。へ続く。
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