「ええっ? なまえちゃん、海外……って言うか飛行機、一度きりですか?」
黒澤が驚くと彼女が恥ずかしそうに答えた。
「だよねぇ。今時、そんなヤツ少ないんだろうね。行く機会も金も暇もなかったんだもん。でもさ、バイクで北海道走ってみたくてねぇ。バイト増やして金貯めて、夏休みに行ったの。行きはバイクで青森まで行って、そっからフェリー使ってさ。それで自分が、船に弱い事を知ったんだ。でさ、もう船、嫌で帰りはバイク陸送して飛行機で帰って来た。あんまり贅沢出来なかったけど、楽しかったなー」
「すごいですね。学生の頃にですか。お一人で行ったんですか?」
と黒澤。
「ん、一人で行った。北海道、気持ち良かったなー。後は大阪方面とぉ……近場で東北道で那須方面へツーリング行ったのとか、山梨とか、あとぉ昴と牧場行ったでしょ。それからみんなで温泉行った……その位しか行った事ないからさ、新婚旅行ってどういうプランが良いのか、判断がつかないんだよね」
「なら、国内だって良いんじゃねえか? 熱海とかな」
室長が、飲みながら言う。
「熱海? 国内新婚旅行の定番なの?」
「まあ、昔の定番ですかね」
彼女に黒澤が答える。
「昔か……。じゃあ、お洒落っぽくないねぇ……」
「何だ、そのお洒落っては? チビ助は洒落た所が良いのか? なんか、お前らしくねえな」
「だってさ、昴の新婚旅行でもあるんだよ? 昴の新婚旅行なら、お洒落じゃないとさ。似合わないよ。後から誰かに『一柳さんは新婚旅行はどちらに行ったんですか?』なんて聞かれてさ、ダサかったら昴、答え難いし恥かいじゃんよー」
「あはは。そういう理由ですか。本当に、可愛い人だな」
と黒澤が笑う。その横で室長がちょっと呆れたような、でも何となく笑ってるような顔で言う。
「やっぱりそんな事か。チビ助は昴バカだからな。そんなのなあ、お前の行きたい所に行けば良いんだよ。なあ?」
『ですね』と室長に返し、そんな風にいつもオレの事を考えてくれる彼女に愛しさと嬉しさを感じる。
「そうだよ、なまえ。そんなの、気にすんな。ふふ……なかなか候補が出ねーと思ったら。お前ってヤツは……オレはさ、人がどう思うかなんて、どーでも良いよ。お前と楽しく過ごせれば、それが一番だ。国内だろうが、海外だろうが構わねーの。そうだな……強いて言うなら、お前の行ってみたい所が良いな」
「なまえちゃん、最近では国内新婚旅行にする人も多いらしいですよ。近場で贅沢旅行にしたり、のんびり過ごしたりするカップルも増えてるって話です。何と言っても安全ですしね。それに、国内でも良い所が沢山ありますよ」
黒澤が彼女に言うと、彼女が『そうなの?』とその話題に食い付く。
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