「私、まだお礼も言ってなかったわ。なまえさん、息子を助けてくれてありがとう。昴も、隆一も私にちゃんと教えてくれなくて。隆一ったら昨日突然、話したのよ。全く……。あなた、命掛けで隆一を助けて下さったのね。本当にありがとう」
気位の高いこの人が、彼女に深く頭を下げた。
「いえ……頭を上げて下さい。私は、自分の大事な人を守っただけですよ。一柳さんは、私の大事な未来のお父さんですから」
「なまえさん……、ありがとう。昴をよろしくお願いしますね」
父さん達をホテルの前で見送り、オレ達と室長、黒澤が残った。
「室長、お父さん会は良いんですか?」
オレが聞くと室長が、黒澤に『カメラもう良いだろ』と止めさせてから言った。
「こんなめかした娘がいるのに、わざわざおじさん達と飲みに行くわけねえだろが。チビ助、喉渇いたろ? お父さんと銀座デートするか。な」
飲む真似をした後、ニカッと笑い腕を組むように促す。彼女が戸惑うと彼女の手を取り、自分の腕に回させた。
「さあ、行くぞ。おい、娘婿は行かねえのか? 置いてくぞー。それと、お前はどうするんだ?」
オレと黒澤に声を掛ける。黒澤が『お供しますっ!』と張り切った。彼女が室長に引かれ歩き出す。歩きながら振り向き、オレを見上げる彼女に微笑み頷いた。通行の邪魔にならないよう彼女の後ろを歩く。
「銀座か。ここらは最近来てねえからな……昴、なんかいい店ないか?」
室長が呟くように言ってオレに話し掛ける。
ヘンな店に連れてったら怒られそうだ。高級過ぎず、雰囲気が良く味もなかなかな店に連れて行った。室長は『ん、合格』と言い、そこでオレ達は祝杯を上げた。彼女も気に入ったようで『お酒もお料理も美味し、居心地が良いねぇ』と喜んでいた。
「はぁ……結納も無事済んで良かったぁ。教会も披露宴会場も予約したし、招待状も回収して出席者リスト、座席も決まった。ブーケにお花、テーブルセッティング、お料理に引き出物、受付に記録係に二次会の会場に司会……あ、黒澤さん当日よろしくお願いします」
「はい、任せて下さい。男、黒澤、なまえちゃんの為に頑張ります」
ちょっとムカつきバシッと叩く。『あは、あははは……』彼女と黒澤がちょっと乾いた笑いを溢し、彼女はまた何もなかったように確認を始めた。
「えーと……後、何だっけ?」
彼女が和装バッグから手帳を取り出す。
「んーまだ沢山あるな……最終的にプログラムつめるのとか、スピーチと余興のお願いとBGMでしょー。後、んー……。ねぇ、なんか忘れてる気がするぅ」
「どれ」
彼女から手帳を受け取りチェックする。
「旅行じゃねーか。もう申し込まないとギリギリだぞ」
「旅行か。そうかぁ……うーーん」
「うーんってチビ助。行きたいとこ、ないのか?」
「だってぇ僕、旅行あんまり行った事ないんだもん。旅行って言ったら、近場にバイクでぶらり、だったしなー。海外行ってないし飛行機も一度しか乗った事ないし……」
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