「これはなまえからの受書と引出結納でございます。幾久しく、お納めください」
秋月父が言って今度はオレが、さっきの彼女と同じ事をする。オレが元通りに戻し終えると、父さんが口を開く。
「大変結構な引出結納をいただき、ありがとうございます。幾久しくお受けいたします」
その後、今度は楓さんがさっきの秋月母と同じように結納返し(引出結納)の目録を上座に納め、かわりに用意しておいた受書を彼女の前に置き一礼して戻る。父さんがそれに合わせ言う。
「これは昴からの受書でございます。どうぞお改めください」
彼女達が先程と同じような手順で受書を確認した。
「ご丁寧に誠にありがとうございます」
秋月父の挨拶が終わるとオレの番だ。
この後、婚約指輪を彼女へ贈るのだ。指輪は、あの後プロポーズし彼女に渡してあった。今日の結納の為に彼女から、もう一度借りた。
オレが、彼女の指に指輪をはめると、皆から拍手が起こる。今度は彼女からのお返しの番。二人で選んで揃いで用意したタイピンを彼女に、はめてもらった。
プラチナのシンプルなデザインのタイピンの裏には[I am yours.]のメッセージと二人のイミシャルが刻印されている。またパチパチと拍手が起こる。
何だか嬉しいような、ちょっと照れくさいような気分になり彼女を見ると、恥ずかしそうな顔でやっぱり照れていた。フッと小さく笑うと、オレを見上げ嬉しそうに微笑む。
この日、彼女はこんな風に何度も微笑んだ。その笑顔を見る度にオレも幸せで満たされた。
「本日は誠にありがとうございました。おかげさまで略式ではございますが、無事に結納を納めることができました。今後とも幾久しくよろしくお願いいたします」
父さんが閉めの挨拶を口にすると秋月家父が返す。
「こちらこそ誠にありがとうございました。今後とも末永くよろしくお願いいたします」
そう言って腰を上げ、父さんと握手をかわした。父さんは続けて、お父さん会の二人とも挨拶をかわして話し始めた。
「なまえ、お疲れ。緊張した?」
オレは、その間に彼女に声を掛ける。
「ん、緊張した。手、震えちゃった。昴は余裕そうだったね。あ、ちょっとそのまま……」
そういいながら、手を伸ばしネクタイを直してくれる。
「曲がってた?」
「ん、ちょっとだけ。ねぇ、これ気に入った?」
「タイピン? ああ、気に入ったよ。後ろのメッセージもな……」
「ふふ。なら、良かった」
「どうだ? 似合う?」
「うん! とっても似合う。素敵だよ」
彼女が笑顔をくれる。それにオレも笑顔を返し微笑み合った。
「お二人とも、良いですねぇ」
『え?』と見れば黒澤がオレ達の側でカメラを回していてた。みんなの会話もいつの間にか終わったようだ。オレ達は、注目を集めていた事にそこで漸く気付き、彼女は真っ赤かになって恥じらった。
.