座席問題は、彼女が認識していなかっただけで、親族席に座るつもりになっている人達は大勢いて無事解決した。が、どうやら阿久津先生のお父さんも秋月家父も、彼女とバージンロードを歩くつもりでいたので、室長も加わって今度は、ちょっとしたエスコート役争奪戦が勃発した。
だが、この問題は室長が『この件は私に任せなさい。丸く納めてあげるわ』と張り切り、電話で何度か話し合って宣言通りに無事丸く納めてくれた。
結局、結納を秋月父と秋月母に頼み、披露宴での親族代表スピーチを阿久津父に頼み、室長がバージンロードを歩く事になった。丸く納めるどころか、それ以上の成果があった。どういう話術を使ったのか、すっかり意気投合して[お父さん会]なるものを結成したらしい。
(さすがは、穂積泪。すげーな)
その結果報告を聞きながら、改めてそう思った。
オレ達は、その後も目前に迫る結納の確認や、九月の式に向けた準備に追われた。
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そして、結納の日を迎えた。
結納はホテルでセットプランというのがあり、結納品、花代、食事などが含まれ、儀式の口上や動作の指導もしてもらえると聞きそれを利用した。オレはブラックスーツ、彼女は振袖を着て出掛けた。行ってみると、秋月家のご両親と[お父さん会]の他の二人と、何故か黒澤が来ていた。室長達は、見学。黒澤は『記録係です』との事だった。黒澤は『どうぞお気になさらず』と早速ビデオカメラを回し始めた。
ロビーで皆が揃い、軽く挨拶をかわし用意された会場に移動した。
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父さんの挨拶から、結納が始まった。
「この度は、なまえ様と、私共の昴に大変結構なご縁を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。つきましては、本日はお日柄もよろしいので、婚約の儀、執り行わせていただきます。本来ならば仲人様を通して正式にお納めすべきところ、前もってのお話どおり、略式にてお納めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
皆で頭を下げてから、彼女を見る。彼女は緊張でカチカチになっていた。何だか可愛くて笑ってしまいそうになり、なんとか堪えた。オレがそんな事を思っていてる間にも滞りなく結納は進んで行く。
「これは昴からの結納でございます。幾久しくお納めください」
秋月父が受け取り、彼女が手渡され、事前に教わった通り目録の中身を取り出して確認し、秋月家父、母が続いて回覧した。戻って来た目録を彼女が、緊張にちょっと震える手で元通りに戻すのを見届けて、秋月父が口を開く。
「大変結構なご結納の品々、ありがとうございます。幾久しくお受けいたします」
秋月母が結納品を上座に納め、かわりに用意しておいた受書と、結納返し(引出結納)の目録をオレの前に置き一礼して戻る。
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