『結婚式の準備は二人で一緒にしたい』と言っていた彼女は、忙しさの中で準備が進まずに焦りと疲労が蓄積されているのか、笑顔が減り眉間にシワを寄せている事や、ため息をついては何か考え込んでいる事が増えた。
「はぁぁあぁ……」
また彼女が、携帯を見ながらため息をつく。
「何よ、チビ助。ため息なんかついて」
「いえ……別に」
室長に短く答える彼女の手から、隙をつくように如月が後ろから携帯を取った。
「あー! ちょっと! 如月さんっ」
慌てて、取り返そうとする彼女をかわしながら画面を読み上げる如月。
「レンタル家族ぅ? 結婚式・披露宴代理出席 誰にも相談できないお悩み……解決ぅ? えー?」
彼女が『あぁー』と落胆の声を洩らし、ばつが悪そうな顔でオレをチラッと見た後、ガクリと項垂れる。明智さんが聞く。
「何だ? そのレンタル家族って」
「そのままです。家族の代行をお金を払って頼むんですよ。その時だけ[お父さん]や[お母さん]になってもらうサービスです」
如月が答える。項垂れたままの彼女に問い掛けた。
「なまえ、何でそんなの見てたんだ?」
「だって……結納とか式の時、誰もいないとヘンだもん」
「だからって、そんなの──」
「しょうがないじゃんっ! 昴に恥かかせるもん!」
珍しく、食って掛かるように言う彼女。オレはオレで、相談されなかった事が引っ掛かっていて思わず、強い口調で返す。
「だったらこじんまりした式にするとか、方法はあるだろが!」
「それじゃダメなのっ!」
「あ? なんで? ちゃんと分かるように言え! 一人で何でも決めんなっ」
彼女が言葉に詰まり『うーーっ!』と唸る。
「だから、そうやって隠すなよ。何でも相談しろって、いつも言ってんだろが!」
その言葉に、彼女は眉間にシワを寄せて、拗ねたように口を尖らす。
「はーい、はい! ストップ! そこまでよ。二人共、ちょっと落ち着きなさい」
室長が止めに入る。
「昴も興奮しない。二人共、落ち着いて話ましょ。ほら、こっちいらっしゃい。明智、応接にお茶お願い」
見れば、口を尖らせたまま彼女が泣きそうな顔になっていた。ズキッと胸が痛んだ。室長に促されソファーに掛ける。
「チビ助、そんな顔しないの。あのね、アンタは心配掛けないようにって、何でも一人で頑張っちゃうでしょ。アンタの気遣いは分かるんだけど、でもね、それをやられると寂しいもんなのよ? アンタだって昴にやられたら寂しくなるんじゃない?」
「…………ごめん、なさい」
項垂れたまま、言う彼女に『いや、オレも悪かった。すまない』と謝る。明智さんが、珈琲とお茶とミルクティーを持って来てくれる。
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