本当は彼女に説明したい。だが、この大詰めに来て下手な行動をしてもしも、彼女と接点を持った事があの女の耳に入れば、そこから綻びが生じて何もかもが水の泡になり兼ねない。あの女は一度彼女との事を怪しんでいる。ここはより、慎重に成らざる得ないだろう。彼女の事は気になるが、オレは事が片付くまで彼女と一切の接触を断つ事にした。
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そして、やっとの事で確証とするに足る証拠を掴み、石神に託した。
石神達は直ぐに動き、重鎮と呼ばれる人物をはじめとした容疑者を芋づる式にあげた。
その中にはあの女警視や清水とその手下も、勿論いた。特に女警視は叩けば埃の出る体らしく『色々と余罪がありそうだ』と礼を言いに来た石神がチラリと洩らした。
彼女は明日から捜査室勤務に就く事になり、ウイークリーマンションを出て家に戻って来た。
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テレビでニュースを見ながら、二人で食卓を囲む。
「お義父さん、大丈夫かな……」
「ん、今頃、対応に追われてるだろうな」
「これってお義父さんの進退問題にまで発展、とかになる可能性ある?」
「どうかな……まだ入って来る情報が少な過ぎて分からねーな」
「心配だなぁ……」
飯を済まし、風呂に入ろうと言うと彼女が躊躇う。
「何で?」
「だって……僕、ちょっと貧相になったかも知れなくて……見られるの恥ずかしいんだもん」
確かに彼女は、ちゃんと飯が食えてない上の、連日の激務から来る精神的、肉体的疲労でやつれて見える。
「バカ……そんなの気にすんな。お前がふっくらするまで待ってたら、なまえ不足でオレのが、痩せちゃうよ。オレの癒しをこれ以上奪うな」
そう言って、お姫さまだっこで抱えた。久々に抱き上げた彼女は、やっぱりかなり軽くなっていた。それが胸を締め付けて、泣きたくなったがグッと堪え笑顔を作り、風呂に向かった。
風呂に入って暫く彼女は、恥ずかしそうにしていた。だが、久々に洗ってやると、気持ち良さそうないつもの猫の顔になった。その顔を見て彼女が戻った事を実感し、ホッとすると同時に嬉しくなった。
湯船につかりながら、オレは彼女に謝った。アレ以来ずっと気になっていた。彼女はフッと笑い『いいよ』と言ったけど、その笑顔はちょっとだけ悲し気に見えた。
「なまえ、我慢しないで何でも言って。ここに溜まってる事……吐き出して。殴ってくれても構わない。だからさ……傷付けたオレが言う立場じゃねーかも知れねーが、我慢しないでくれ」
「……殴るなんて、出来ないよ。……僕、ちゃんと信じてたもん。約束したろ?」
「ああ。そうだけど……」
「そうだな……昴、自分を[僕]なんて言ってたから、直ぐにらしくないって感じた。ああ、何かあるのかなって、そう思ったよ。ま、信じていても、どうしてもモヤモヤして苦しかったけど……でも」
「ん?」
「……もう、いいや」
「いい?」
彼女は『うん』と頷きオレの首に腕をまわして柔らかく抱きしめた。
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