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あれから、オレ達は一応ミーティングをして[女王の求める人物像について]と[真山のフォローについて]打ち合わせた。
「ボンボンって言ったら……。やっぱり世間知らずでそこそこ自尊心はあるものの、どこか頼りない男ですかねー」
如月の言葉に明智さんが『そうだなあ……』と口を開く。
「少なくとも今の素とは違うな」
「自信満々で出来すぎなのはダメ」
明智さんの意見に小笠原がボソッと続け、みんながうんうんと頷く。
「そこんとこうまく演技しなさい。出来るわね?」
と室長が念を押すと、如月が付け足すように言う。
「大丈夫とは思いますけどー、寝技もNGですよ」
「そうやね。チビが後から泣くようなんは、厳禁や。あかんよ」
藤守が言うと『それは、絶対にダメだからな』そう、みんなに念を押された。
彼女のフォローについては、日中はうちも仕事を抱えてるので無理。深夜に及びそうな場合中心に、清水とその手下にバレないように慎重にフォローして行こうという事になった。例えば、深夜一人で張り込みの場合、それを見守り危険や困った事が起きた場合に、フォローを入れる。最低限、彼女が一人で踏み込みヤバい事になるなんて事態は、回避しようとみんなで頷き合いミーティングを終えた。
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その後、あの女警視は予想通り粉をかけ誘惑して来た。オレは女の口車に乗ったフリをした。そして、女王様のお眼鏡に叶うべく本来のオレを押し殺し、どこか抜けた世間知らずなヤツになりすまし、すっかり女王にご執心という体(てい)で擦り寄って行った。近付いてからは、徹底的に女の服装から容姿、中身に至るまでを、べた褒めしてやった。従順さもさりげなくアピールする事も忘れなかった。とにかくあの手この手で、オレは女王様の[お気に入り]になった。
その頃になるとあの女はオレをすっかり信用し、最初は見せなかった隙を見せるようになった。その証拠にオレに秘密をポツポツと漏らすようになり、時にオレの機嫌を取ろうとする事さえ出て来た。
ポーカーフェイスは慣れたものだ。内心はうんざりしていようが、疲れていようが表には出さずフリを貫き、事は順調に運んで行った。
証拠も着々と集まりつつあり、あと一つ確たる物が欲しい──そんな所まで来ていた。
この任務は思った以上に疲れた。仕方ない事とはいえ、人を騙す後味の悪さや本来の自分を押し殺す事から来る精神的な疲労は半端なかった。加えて肉体的な関係を求めて来るのを、女の機嫌を損ねずにうまくかわさなければならないのが、また一苦労だった。オレの中に、少しずつ疲労がたまるのを感じると無性に彼女に会いたくなった。抱きしめて癒されたかった。でも今は、堪えるしかない……会いたくて会えない時は、彼女の事を考えた。
(きっと、なまえも頑張ってる。オレも踏ん張らないとな……)
最後にそう思う事で、また気力が湧き頑張れた。隣に居なくても、なまえがオレを支えてくれていた。
そんな日々を過ごす定時後。ある出来事が起こった。
警視庁から離れた場所で落ち合って、女と連れ立って歩いていた。オレに腕を絡めべったりと凭れるように歩く女に、甘い言葉を囁いていい気分にして口を軽くさせた所だった。
ふと赤い光が視野に入り、目を向けると斜め前方にパトカーが一台、反対車線に止まっていた。
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