「真っ青だ。向こうで休もう。良いか? 抱き上げるぞ」
「ん……ご、ごめん。肩の、み、耳元の……あ、の……声、思い出して……び、びっくりして……ごめん」
また泣きそうな顔だ。
「良いよ。大丈夫だから気にすんな。オレに凭れてろ」
そう言うと、彼女は素直にオレの胸にぐったりと凭れた。
丁度戻ったメンバーが悲鳴を聞き付け『おい! 何だ? 今の悲鳴──』と駆け込んで来た。真っ青な顔でぐったりしてるなまえを見てみんなが驚く。
室長が『お前達、道開けろ。通してやれ。貧血か? とりあえず、ソファーに寝かせろ。明智、ブランケットあったろ。持って来てやってくれ』と指示を出す。
彼女を寝かせて少し眠るように言い、手を握りながら頭を優しく撫でた。疲れていたのか暫くすると、小さく寝息を立てて眠った。
起こさないようそっと離れると、遠巻きに様子を見ていた室長達の側に移動した。
「一体、何があった?」
室長が心配そうに聞いて来る。
背後から肩越しに声を掛け近付いた事で、遺体を下ろした時のあの[最期の声]を思い出したらしい事を説明した。明智さんが眉間にシワを寄せて言う。
「無理もない。新人の男でも青くなって、腰を抜かす奴がいる位だ。ましてや、女性がやる仕事じゃない」
「そうやね。あんなんやらされてる女の子、他で見た事ないですわ。ほんまに考えられへん」
「だから、俺がやるって言ったんですよーっ! それをあの警視が。アレは絶対に嫌がらせですっ!」
「パワーハラスメントだ。可哀想に」
不愉快そうに口々に怒るみんなを見ながら、オレは現場で気になった事を口にした。
「あの警視はうちと何かあるんですか?」
室長が嫌そうな顔で、片眉を上げながら答える。
「ああ……。うち、と云うより標的は俺だ。ヤツは警察学校で、俺と小野瀬の担当教官だったんだ。昔から若いのが好きでな。セクハラして来たのを、拒否して逃げた。小野瀬にも同じ事をしてな。アイツもやっぱり逃げた。同時期に二人に拒否られてな。あの時も、ヒスを起こしてエライ目にあった。アレは、自尊心と執着心が強くて蛇みたいな女だ。以来ヤツは俺と小野瀬を、目の敵にしてる。所謂、天敵だな。どこぞに研修だか出向中だかでいなかった筈だが、まさか戻って来てたとは……。チッ、俺とした事が。迂闊だったな」
室長が苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
「あの警視、室長本人やなくて周りのもんを攻撃して来るんや」
「その方がボス本人を攻撃するよりも、より苦しむのを見抜いてる節がある」
「前も凄かったですよねー」
「ああ、アレは堪らなかったよ。前の時は、俺と大田がネチネチいびられたんだ。今度のターゲット、彼女なのかも」
と、小笠原が心配そうに眠る彼女に目をやった。
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(結局、あの時の小笠原の予想が的中したな。あんな女のご機嫌を取って擦り寄るなんざ、ヘドが出そうだ。本当は顔も見たかねー。だが、うまいことやって早く尻尾を掴んでなまえを取り戻さねーとな)
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