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捜査室に帰ると如月が戻って来てた。長く遺体の傍にいたせいか、ヤツも少し臭った。
「昴、チビ助、お帰り。あー如月。アンタもシャワー浴びて来なさい」
室長に言われて如月がシャワー室に向かう。
小笠原が、室内にファ*リーズをシュッシュとまく。
「室長達もシャワー浴びて来てよ。何となく臭う……いやならファ*リーズするよ」
小笠原にファ*リーズを構えられため息まじりに返事を返す室長。
「はいはい、分かったわよ。明智、アンタも付き合う? じゃ、行きましょう。小笠原は……行かないわね」
「行かない」
「あーちょっと! こっちに構えないでちょうだいよ。今行くわよ。全くうるさいんだから……」
ブツブツと溢しながら室長と藤守、明智さんがシャワーを浴びに行く。
みんなが出て行くと、小笠原も席を立ち出て行った。彼女がそれを見送り、少し不安気な顔でオレに聞く。
「ねぇ、やっぱり僕、まだ臭いんじゃない?」
「ああ? 小笠原が出て行ったからか? お前が臭くて出て行ったって、思った? いや、そうじゃねーだろ。偶然だよ。本当にもう臭くねーって。気にし過ぎ」
そう言っても、まだ心配して自分の匂いをクンクンしてる彼女。
オレはふと、彼女にプレゼントしてやろうと取り寄せた物の存在を思い出し、彼女を呼んだ。
「なまえ、こっちおいで。良いものがあった。つけてやるよ」
「良いもの?」
箱から瓶を取り出して手に取り、彼女にちょこっと試し塗りして、かぶれない事を確認してから服から出てる部分の、腕や手、首、顔に塗ってやる。
「わぁ……良い香り。桃?」
「ああ、これ、ボディトリートメント効果あるからお肌プルプルになるらしい。自然な香りで良いだろ?」
「うん、芳香剤って感じじゃなくて、本物の桃のに近い香りだね。はぁー、良い香り……」
「気に入った?」
「うん! とっても!」
彼女がやっと笑顔を見せた。
(買ってといて良かった)
その笑顔に、オレも頬をゆるめた。
「そっか、良かった。桃の香りはなぁ。脅迫観念を和らげる作用があるんだって」
「そうなんだ」
「んー桃の香り、やっぱりなまえに似合うな。ミルクの香りと迷ったんだが、夏になるから桃にした。香りも、この位なら強すぎないし……すれ違い様とか近寄った時にふわっとする感じだろ。なまえは、キツい香り苦手だもんな」
「うん、香水とか苦手だけどこれは好き」
「それに、お前にハグしたり、ちゅうしたら良い香りでオレも癒されるしな」
言いながら頬に“ちゅっ、ちゅっ”と小鳥が啄むように軽いキスをする。
「ふふっ、昴ーぅ。くすぐったいよ」
彼女が逃げようとする。
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