「そう。分かったわ。じゃあ、真山も急行して。しっかり頼むわよ」
「はいっ!」
「私も用が片付いたら直ぐに追い掛けるわ。明智、昴、私が行くまで頼むわよ」
「了解です」
そうして、オレ達は現場に向かった。アパートに着くと、如月が言った通り表まで凄い臭いだった。入口で下足(ゲソ)カバーを靴の上から履き、白手袋をはめながら中に入る。
中に入ると、中年の──室長よりも歳上と思われる──女が一人、腕組みをし立っていた。
如月がそいつを見るなり『げっ!』と漏らし明智さんと藤守が顔をしかめた。先に鑑識作業に来ていた小野瀬さんが、オレ達を見止めると『お疲れ』と声を掛けながら小声で『女王様も担当らしいよ』と苦笑いした。
(女王、様? 誰だ? 知らねー顔だな)
小野瀬さんに聞こうとした時、小野瀬ラボの大田と細野が奥の部屋からやって来た。
「御大、ご遺体、もう下ろせます」
そう声を掛けオレ達に気が付くと、二人は頭を下げて微かに微笑んだ。
奥の部屋に入ると、上から遺体がぶら下がっていた。
そこで[女王様]が、オレ達に気付いた。女は『なんだ、穂積の所の連中じゃない……フンッ』と小馬鹿にするように鼻をならした。何となく険悪な雰囲気が漂う。藤守が、ボソッと吐き捨てるように言う。
「何で警視様がこないなとこへ出張ってんのや」
「そこの巡査部長、今なんか言った?」
「いえ、なーんも言うてまへんけどぉ? 警視さんの空耳とちゃいますの」
不機嫌そうに言う藤守を、明智さんがなだめる。
「全く、穂積も教育がなってないわね。ちょっと鑑識、まだなの? 小野瀬、何やってるのよ。早くなさい!」
「あ、はい。た、只今」
細野が焦りながら、返事をする。小野瀬さんが口を開き何かを言い掛けた。丁度その時、外で『わぁーっ』と騒ぎ声がして表にいた制服警官が『手を貸して下さい!』と血相を変えて、駆け込んで来る。
何事かと、二階の通路から覗くとアパートの前の道路で男が一人、刃物を振り回していた。通行人が、悲鳴を上げ逃げ惑う。制服警官が何人かで遠巻きに囲んでいるが、まだ確保に至ってない。
今にも飛び出して行きそうな彼女に『如月と、ここにいろ』と命令し、オレ、明智さん、藤守、小野瀬さんで応援に向かう。
● ○ ● ○
数分後、途中で到着した室長も加わり無事刃物男を取り押さえる。男はどうやら*ヤク中らしい。室長の指示で明智さんが制服警官と一緒に男を連行して行った。
*ヤク中:薬物中毒者
.