「オレに、世間知らずのボンボンをやれって?」
「ああ、一柳。大事な二人を守る為なら、その位は出来るだろう」
「大事な二人……フッ、父さんと、なまえか」
オレがそう言うと石神は眼鏡を上げながらフッと笑った。
結局、引き受ける事にした。
(今の話じゃ女王が捕まれば色々余罪も出て来そうだ。そうなりゃ、清水達もなまえに関わっている暇は無くなるだろう。それに父さんが狙われるのが分かってるなら未然に防がねーと。その前に、あいつが勘違いしねーように念を押しとかねーとな)
● ○ ● ○
その夜、帰宅時間を見計らいウィークリーマンションを訪ねる。インターフォンを鳴らすと疲れた声で『はい』と応答がある。
「オレ」
「ちょっと待って」
インターフォンが置かれドア越しに気配を感じる。ドアスコープで確認したんだろう。ドア越しに声が掛かる。
「昴、どうしたの?」
「んーとにかくここ開けて?」
「あの、別な日じゃダメ?」
「ダメ。用があるんだよ。とにかく開けてくれ」
ドアが少し開き、暗い部屋がちらっと見える。彼女は顔半分ドアに隠れたような状態でもう一度言う。
「せっかく来てくれて悪いけど、ごめん。本当に疲れてるの。もう休みたい。だから急用じゃなかったら──」
ドアを掴みもう少し開くと閉められないように足先を差し込む。
「急用なんだよ。中、入れろ。じゃねーとドアチェーン外すけど?」
彼女が観念したようにため息をつき『分かった。今外すからちょっといい?』そう言って一旦ドアを閉めた。中からドアチェーンを外す音がして、バタバタと足音が遠ざかった。
ドアを開けて中に入り暗いままの部屋に、明かりをつける。彼女は家から持って来た自分の肌掛けにくるまり、ソファーに丸くなってこちらに背を向けてた。どうやら、顔を見せたくないらしい。
「お前なー、久々に会うのに冷てー。ハグとキスで迎えてくれねーの?」
「つ、疲れてるの。言ったじゃん」
「ん、言ったな。なら、せめて顔見せて」
「…………」
(フッ、困ってる困ってる。こいつをいじめて良いのはこのオレだけだ。女王だろうが、ゲス水だろうが、他は赦せねー。今に尻尾を掴んでやる。なまえ、もう少し辛抱しろよ)
今は口にするワケに行かない言葉を、ひとり胸の中で彼女に語り掛け、ぐっとそれを飲み込む。代わりに愛しい人の名を呼ぶ。オレの呼び掛けに彼女は、ピクッとしてより縮こまり顔を隠す。困った彼女はポツリと一言。
「ヤダ」
「何で?」
「何でも!」
『ふぅーん、何でもねぇ……』と言いながら部屋を見回す。透明なゴミ袋にカロリー*ート空缶を入れたものと、栄養ドリンクの空き瓶を入れた袋、それにカップ麺の容器などのゴミが入った袋、燃えるゴミが入った袋が分別されて隅に置いてあった。
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