「もしかすると……おチビちゃん、余裕が無いのかも知れないねぇ」
「小野瀬、お前なんか聞いてるのか?」
「お父さんの所にまでは、まだ届いてないんだ? 噂」
「噂? どういう噂だ」
「話したい所だけどさ、俺午後イチで出ないといけないんだ。もうタイムリミット。戻ったら教えるよ。あ、明日俺、昼に合わないからランチはお休みで」
時計を見た小野瀬さんが『ごちそうさま。お先に』と慌ただしく出て行った。
「もう、小野瀬は! 気になるじゃないの。……はぁあ。いっその事、暫くランチはお休みにしましょうか? 昴も今は弁当作る気分じゃないでしょ」
室長の一言で翌日から弁当は暫く休む事になった。
● ○ ● ○
翌日の昼近く、如月に誘われた。
「一柳さん、飯一緒に行きませんか?」
「昴、行こうや」
「ああ」
「あら、私も一緒にいい?」
「ええですよ。室長と外ランチ、久々ですねぇ」
「室長が外って珍しいですね。弁当やる前も、なか飯でしたよねー?」
「ん? ちょっと行きたい店があるのよ。そこでいいかしら? 小笠原と明智も行きましょ」
『ちょっと急ぐわよ』と言う室長に連れて来てもらった店は、居心地の良さそうな店だった。席は高い背もたれで各席を仕切る、ボックス席の造りになっている。室長は店長らしき人物に『いつもの所、いい?』と聞いて奥から二番の席に着いた。
「はい、メニュー。ここは私のお気に入りの店なの。メニューは豊富だし安くて旨いわよ」
メニューを受け取り皆で覗く。すると店の人がやって来て人数分のメニューと水をくれた。
「泪ちゃん、久しぶりだねぇ。元気だった?」
「ああ、相変わらず元気にやってるよ。忙しくてなかなか来られなくて悪いな」
「いいよ、いいよ。元気ならさ。まあ、暇が出来た時にでも、またこうして顔見せてくれよ」
そんなやり取りを聞きながら、メニューを選び注文した。その内に店は少しずつ混んで来たが、早めに到着したのが良かったのか、待たされる事もなく料理が出された。味も室長が言うように旨かった。
(今度、なまえも連れて来よう)
みんなで『へぇ、いい店だな』などと話してると、入口が一番見え易い位置に座っていた室長が、何かを見て言った。
「ここはねえ、もうひとつ良い事があるのよ」
詳しく聞こうとしたオレ達に人差し指を口の前に立て『シィー』と言い胸ポケットからペンと手帳を出し、さらさらとペンを走らせた。
[もしかすると、知りたいネタが掴める。でもここに私達がいるのが分かったら、水の泡。暫く黙ってる事]
みんなで黙って頷き、また食べ始める。
隣から話が聞こえて来る。どうやらなまえが今行ってる清水の所と同じフロアーの奴等らしい。みんなで顔を見合せると室長が、ニヤリとした。
それから、オレ達は小野瀬さんの言った[噂]を耳にする事が出来た。
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