(ああー! いい加減イヤになる。そうでなくてもこんな梅雨のじめとした時期に。余計に気分が重くなるだろうが、クソー! 調子が出ねーんだよ!)
頭の内でひとり愚痴る。表向きはポーカーフェイスで取り繕ってはいるが、本音を言えばこの現状に苛立ち、閉口していた。原因は分かっている。
オレの日常生活になまえがいないのだ。
(昔はこの、一人の状態が当たり前だったのにな。人間、変われば変わるもんだ)
こんな自分に苦笑いが浮かぶ。
だが、今やあいつはオレの癒しであり活力源になっている。それが、もう何日もあの笑顔を……いや、顔すら見てないか。顔だけじゃねー声だって聞いてない。この前、一目散に駆けて行くあいつの後ろ姿をチラっと見たっきりだ。
(一緒にいられねーならせめて声が聞きてーし、顔が見てーのに。はぁー。真面目にあいつが不足し過ぎ。だいたい、仕事だけじゃなくプライベートでまで別々ってありえねーだろう。おまけに、色んな話が入って来るわりには現状が掴めてねー)
彼女からは[元気でやってるから、何も心配要らないよ。昴も身体に気を付けてお仕事頑張って]お決まりのようなメールが律儀に毎日届く。
最初は昼飯を食べに来てたし、電話でも話した。だが、今はこのメールだけ。それどころか、ここ数日はオレ達を避けている節がある。オレ達を見掛けると、踵を返し一目散に逃げて行く。
[何故か]は分かっている。彼女はオレ達に隠したい事があるのだ。どうやら、オレ達の耳に届いたネタは事実らしい。
(……あいつ。また一人で無理しやがって。隠したって、ネタは上がってるんだよ)
● ○ ● ○
そのネタに関する情報をオレ達が初めて耳にしたのは数日前の昼飯中の事だった。
「チビ、今日も来ませんでしたねー」
如月がため息をつき、飯を口に運ぶ。
「なんや如月。ため息つきながら飯、食うなや。辛気くさいわ」
「すみませんー。だけどなんか、チビがいないと明智さんと一柳さんの天国ご飯も、天国になりきらないんですよねー」
「チビのあの美味しそうに食べる顔に、プラスアルファの効果があったんだろうな」
明智さんが食べながら言う。
(本当だよな。あいついねーと飯もイマイチ。あーあ、早く会いてーな。あ、でも今回だけじゃなく警察学校六週間の時も泊まり込みだからその内また、この状態か……はぁああ)
食いながら内心でため息をついていると、小笠原が聞いて来る。
「一柳さん。彼女、まだウィークリーマンションで寝泊まりしてるの?」
「ああ、あっちにいる内は戻って来ないつもりらしい」
「確かにねぇ。おチビちゃんの言う通り、女王様とあの清水さんだからね。付け入る隙は極力与えない方が良いけど……今頃どうしているかな」
黙って飯を食いながら小野瀬さんの言葉に、また彼女を思う。
「昴君と穂積には、おチビちゃんから連絡が来てるんだろう?」
「ああ。チビ助からは、毎日メールが来てる。元気だから心配するなだと。最近はそればっかりだけどな」
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