「ひーめ、こっち見て話せよ」
「…………」
彼女からクッションを剥がし、覗き込みながら聞く。
「受験を躊躇うのは、結婚が関係あるんだろ? ん?」
彼女が困った顔をする。
「試験に、かち合わないようにしたら良いだろ? もし合格したら警察学校六週間か。あらかじめ当たりそうな時期を避けて、挙式の予約すれば大丈夫じゃないか?」
「そうだけどさー……」
「何が心配?」
「準備してる余裕無くなるじゃん。それにさ、受かったら異動だし……バタバタだよ?」
「オレがフォローすれば何も問題ねーだろ? それに結婚しても異動だろ」
「…………」
「……異動、不安か?」
彼女が小さく頷く。ちょっと泣きそうな顔になった。
「あそこ、好きだし、昴とも一緒じゃなくなる……」
彼女の頭を撫でてやる。
(だよな……。あんなに捜査室に馴染んでいれば、離れるのは寂しいだろう。それに女に偏見を持つ奴等も、女に風当たりの強い部所もまだまだ多い。もしも異動して、そんな環境になったらキツい状況に身を置く事になる。不安になるなって言う方が酷かも知れねー。正直言えば、オレだってついていてやりたいし、守ってやりたい。……でも、こればっかりは決まりだからどうにも出来ねーし、な)
「なまえ、仕事は違っても、これからはお前はオレの人生の相棒だからな」
「ん……」
「それに捜査室から異動になっても、やっぱりみんな仲間だし、お前の家族代わりなんだと思うぞ? だってアレだろ。小野瀬さんや桂木班や公安の奴等とは仕事一緒じゃなくても仲間だろが」
「ん……」
「大丈夫。何も変わらねーし、なくさねーよ。仲間を信じろ」
「うん」
「よし、いい子だから抱っこしてやるよ」
ちょっと無理やり気味に何とか笑った彼女を、抱きしめてやる。彼女を腕の中に抱きながら、オレは(彼女の寂しさが和らぐように、どこに異動になっても……新しい職場でも、この先も彼女が上手く行くように)と心の中で祈ってた。
● ○ ● ○
「そうね。巡査部長に昇格すれば、異動。結婚しても異動。だとするなら、チビ助はどのみち異動しなきゃならないって事だしね。それを考えるとやっぱり私も、次の試験を受ける事に賛成よ。アンタが、私の下にいられる内に合格して置くのが色々な点を考えるとベストだと思うわ。決めたのなら、しっかりやんなさい」
昇任試験の事を話したあの夜から数日間、散々悩み考えて結論を出し報告に行って彼女は室長に、そう言われている。
その報告の前夜、彼女はオレに言った。
「正直、まだ色々考えると気持ちがざわつく。だけど、期待にはこたえたい。それに今までコツコツやって来た成果も出したい。だから終わるまで諸々の事、考えるのをやめて精一杯やってみる。頑張るよ、僕」
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