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この受験の事は、彼女をかなり悩ませた。あれは、もう結構前になるが、次の試験の申し込み時期になろうかという頃の事。
定時少し前、庁内で所用を済まし捜査室に戻った。
彼女が、室長のデスクの前に立ち何やら話してる。彼女の神妙な顔つきから、真面目な話らしい事が伺えた。
「とにかく、私は受けた方が良いと思ってる。よく考えて早目に返事を聞かせてちょうだい。ま、必要なら二人で話し合いなさい」
「はい……了解です」
「じゃあもう時間だし、今日はあがってよし。チビ助、良い返事期待してるわよ」
「…………」
「……もう、アンタは。そんなに深刻になる事? アンタだっていつかは受けようと思って準備して来たんでしょ? オヤジさんから聞いてるわよ」
「え?」
「派出所勤務の頃から谷田部やオヤジさんにアドバイスをもらいながら、頑張ってたって。もしかすると環境が変わって、躊躇するかも知れないから、その時は頑張るように発破を掛けてやって欲しいって。心配されてたわ」
「オヤジさんが……」
「そっ、みんなアンタを応援してるのよ。さあ、今日は帰ってゆっくり考えなさい」
そう促されてオレ達は、捜査室を後にした。
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帰宅し風呂と飯の間、彼女は何かをずっと考えているようだった。食後に、ミルクを多めでちょっと甘めにミルクティーを入れ、ソファーでクッションを抱え煮詰まる彼女の元へ。飲み物の乗ったサルヴァーをテーブルに置き、彼女の横に腰掛ける。
「姫、おいで」
彼女は、クッションを一旦“ポスン”と横に置くとオレの膝の上に移動した。テーブルからマグカップを取り彼女に渡す。
「ありがと……ホッとする味」
ゆっくりとミルクティーを飲む彼女にフッと微笑み、オレも珈琲を飲む。暫くそうして、静かなひとときを過ごし頃合いを見て切り出した。
「で? 何を考え込んでる? 室長と話してた件か?」
「……室長がね、来年の巡査部長の昇任試験、受けないかって」
「そうか、来年受験資格満たすんだよな」
「ん、そう……」
彼女はカップをテーブルに置くと脇からクッションを取って抱え、顎を乗せた。
「なるほどな。で、悩んでるのか?」
「んー……」
クッションに顔を伏せる彼女。
「何で? 受けるつもりで、ウチでも勉強してたろ? さっきの話じゃ、派出所の頃から準備して来たんだろ?」
「……そうなんだけど」
クッションに伏せたまま口ごもる。
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