飯の後、室長が言う。
「とりあえず、今日は針仕事じゃ役に立たないし、アンタの勉強みてあげるわ」
「我々もそれなら、協力出来そうですね」
そうして、彼女は室長や石神達に家庭教師よろしく勉強をみてもらう事になった。
彼女の受ける昇任試験は来週一次試験があるので、試験勉強も大詰めだ。
真剣な顔で勉強に励む彼女を見守りながら、オレ達、裁縫組はせっせとドレスを縫った。
「昴さん、ベールはこの後縫うの?」
翼さんが聞いて来る。
「ええ、その予定です」
「昴さん、デザインは、もう決めてあるんですか?」
興味津々に結菜が聞いて来る。『一応、こんな感じだ』とデザイン画を出して渡すと、女性達が集まり覗く。『わーここ刺繍入るの?』『素敵ねぇ』などと言いながら盛り上がっている。
「これ、長さは?」
ふと、翼さんが聞いて来る。
「長さはまだ決まってない」
オレの代わりに明智さんが答えると『このドレスなら長めでも、短めでも、どっちも合いそう』『でも、3wayでしょ? 変えた時も合うようにするのよね?』『ロングからミニにもなるんですよねぇ』とワイワイやりだした。彼女のドレスだが、自分の事のように楽しそうに盛り上がる彼女達。
「昴、ちょっと休憩するか。女性陣が盛り上がってるようだしな。そうだ、チビに飲み物を出して様子を見て来たらどうだ?」
「あ、ですね。みんなにもお茶入れましょうか」
手伝ってくれる明智さんと二人、大人数分のお茶を淹れた。
● ○ ● ○
「お疲れです。そろそろ休憩しないか? お茶淹れて来たぞ」
みんなにお茶を配り、最後に彼女の所へ行く。
「よう、お疲れ。どうだ?」
頭を撫でながらアイスティーを渡すと、猫みたいに目を細め『昴、ありがとう』と言う彼女。
「順調か?」
「うん」
珈琲を口にしながらその様子と、色々書き込まれたテキストやノートを眺めて石神が聞く。
「ずいぶん、勉強したんですか?」
「そうですね。それなりには。一応、派出所にいた頃にやり始めたんで……。早く始めた方が良いかなって。派出所の先輩達にアドバイスしてもらって。僕*ノンキャリだし、人一倍努力はしないと中々上に行けなそうですから」
それを聞いて、後藤が言った。
「なまえは、出世したいのか?」
彼女が『んー』と考えて口を開く。
「巡査部長までは目指した方が良いかと、交番時代に思いました。けど、その先はまだ何も考えてません。とりあえずは、目の前の目標を達成しないと……」
*ノンキャリ(ノンキャリア):国家公務員Ⅰ種試験合格者でない人──地方公務員の警察官採用試験を受けて警察官になった人たちの俗称。地方公務員の警察官採用試験にはⅠ種Ⅱ種Ⅲ種があり、受験資格としてⅠ種Ⅱ種は大卒程度、Ⅲ種は高卒以上の学歴が必要である。またⅡ種を受けて警察官になった人のことを、[準キャリア組]と呼ぶこともある。
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