どうやら、心配して様子を見に来たらしい。
「忙しいのにわざわざ、すまねーな。なまえ、良かったな」
オレからも礼を言い、にこにこしてる彼女に微笑む。
「うわぁ一柳警部補、もう御亭主みたいですねぇ」
黒澤の言葉になまえが照れた。
「なまえちゃん、分からない所があれば、聞いて下さい! あなたの黒澤、きっとお役に立ちますので!」
「黒澤、お前大丈夫なのか、なまえに間違いを教えてはマズいぞ」
「やだなー。後藤さん、大丈夫ですよ」
その言葉に一抹の不安を覚えた後藤と石神、オレは思わず黒澤を疑わし気に見た。黒澤が『ガーン』と騒ぐ。彼女が笑いながら『中へどうぞ』と通そうとしてるとまた、来客だ。今夜は来客が多い。一階のインターフォンでは無く、ドアのチャイムだったので少し怪訝に思いながらドアスコープを覗いてみると、小野瀬さんが立っていた。
「こんばんはー。あ、驚かせた? 下はね、どこかのご婦人とご一緒させていただいたんだ。はい、これ差し入れね」
オレと彼女に大量の食べ物の入った袋を渡すと、勝手知ったるというように小野瀬さんは公安の三人を連れて奥に入って行った。
「ねぇ今日なんか、約束してたっけ?」
「いや、何も聞いてねー」
「だよね……」
彼女と首を捻る。
「ま、行こうか?」
「だな」
● ○ ● ○
とりあえず、もらった物で飯にする事にした。みんなで飯を食ってると、室長がある事を言い出した。
「昴、私達もチビ助のドレス、縫いたいのよ。せっかくだし」
「そのさ、デザイン考えたり縫ってるの見てたら、俺達もそういう気分になって来たんだよね。ほら、おチビちゃんの晴れ姿だし。協力したいんだよねぇ」
「え? でもボスは針なんか持った事無いんじゃ……」
明智さんが、聞くと室長が思い出すように答える。
「うん、小学生の時雑巾縫わされたきりかな」
室長や小野瀬さん達だけでなく、公安連中や桂木班の連中や他にも『一針でも良いから縫いたい』と言ってるのがいるのだと黒澤が教えてくれた。だが、その連中も裁縫の経験は無いに等しく、似たり寄ったりの腕前らしい。
「それだけ、なまえちゃんは人気者なんですよ。俺も一針でも参加したいです。一柳警部補、是非、お願いします」
黒澤が頭を下げると室長達が慌てて倣う。
「気持ちは十分理解出来るが、指を突いてドレスを血で汚したら洒落にならんし」
そういう明智さんとオレも同意見で、オレ達は顔を見合せ『うーーん』と唸る。
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