指環を見に行った休日から数ヶ月経ち、今3Wayのウェディングドレスを制作中だ。デザインはオレと彼女で考えようと思ったが、みんな気になって仕方ないようで結局、いつものメンバーと国枝達の意見も取り入れながら決めた。そうした事で、明智さん夫妻や結菜、阿久津先生、国枝達も時間を作って縫うのを手伝ってくれている。今も我が家に集まってみんなでチクチクやっている所だ。
時間があれば、オレ一人で縫い上げてやりたい気持ちもあるが、現実には仕事もある。それに、彼女の巡査部長の昇任試験も目前に迫っている。とりあえず終わるまでは、彼女には手伝わせられない。こんな状況下に正直、みんなの協力はかなりありがたい。
「あっ! なまえ、お前はこっちは良いから勉強してろ」
「でも、昴ぅ。そうは言ってもぉ、これ僕のなのに悪いよ」
「何言ってるのよ。チビ助、もうすぐ試験なのよ」
「それはぁ……分かってるけどぉ」
「いくら、チビが頭が良くてもなめてると落ちるぞー」
「如月の言う通り。とはいえ、如月や藤守も巡査部長になれてるんだから、君がなれない筈はないとは思うけどね」
「えー小笠原さんそれ、失礼ですよ? もー」
いつものように言い合う奴らに(今日も平和だ)とフッと笑った。
(それは良いが……)
オレは『ところで』と室長に質問する。
「室長達は裁縫出来ないのに、どうしたんですか? 酒盛りしてる余裕は、ありませんよ?」
「まあー昴、失礼ねえ。チビ助、聞いた? お父さんをいじめる旦那なんて、ろくなもんじゃないわよ? アンタ、結婚辞めたら?」
「え? フフ……辞めないよ。っていうかさ、お父さん、お腹空いてるんじゃないの? ご飯の支度しようか?」
「だーかーら、なまえは、試験勉強をしーろ。ご飯はオレがやるから」
そんなやり取りをしてるとまた、来客があった。インターフォンに出て見ると意外な連中だった。一階のロックを解除し『どうしたんだろ?』と言う彼女と玄関へ向かった。
「お前達まで、どうしたんだ? 忙しいんじゃねーのか?」
オレが聞くと、眼鏡をクイっと上げ答える。
「大きな案件が片付いたので、少し時間が出来ました。なまえさん」
石神が、そう言って彼女を見た。
「はい」
「貴女の巡査部長の試験が近いと聞きました」
「はい。もうすぐです」
「そうですか。今日は、陣中見舞いに来ました」
石神が視線をやる先に目を向けると、黒澤が両手に持った袋を少し掲げた。それを見て彼女が笑顔になり礼を言う。
「わぁ。ありがとうございます!」
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