「へぇーデザインもシンプルなのから可愛いものまで、色々あるんだな。で、お前は、この中だとどれが気に入った?」
「これとか、これかな。二つともシンプルなんだけどー……。こういう結婚指環合わせるの。ほら、こっちは綺麗なデザインで、こっちはね、表はシンプルだけど内側が……可愛いんだよ。ほら、インサイドストーンが入っててさ、二人のリング合わせるとハートが出来るの。可愛いよね。どっちの指輪も石も邪魔にならない造りだよ。僕、ずっとしてたいんだ。だからこういう結婚指輪ならさ、昴も僕も仕事の時もしてられるよね。あ! 男の人は結婚指輪したくないのかな? モテる男は特に嫌がるってそんな話、聞いた事ある」
「うん? オレ、モテる男か……?」
彼女が『うん』と頷く。
「フッ。他は知らねーけどオレはずっとつける気でいるぞ。お前と堂々とお揃いだからな。つけたいに決まってるよ。オレはね、お前にだけモテればいいんだよ」
そう言って彼女に微笑んだ所へ、ウェートレスが注文の品を持って来た。会話が途切れ彼女が俯く。オレの位置からは、表情が見えない。
ウェートレスが行ってから、彼女の名を呼ぶ。彼女は顔を上げてニマっとし、心なしかくねくねすると『えへへ……』と頬をゆるめて笑った。どうやらオレの言葉が嬉しかったらしい。そんな彼女にオレも『ふふっ』と笑みを溢し、珈琲を口に運んだ。
暫く飲み物を飲んでいると彼女が『うーんー』と何か考える表情になった。思考の海の中にいるらしく、考えながら無意識みたいにグラスに挿したストローを、クルクルとゆっくり回す。氷がカラカラと音を鳴らし響く。その動きを何となく、目で追っていると彼女がおもむろに口を開く。
「僕……指輪なんて買い慣れてないし、沢山あるし。結婚指輪ってどういうのが良いか、分からなくなって来た。素材もプラチナが良いのか、ゴールドが良いのか。デザインはストレート、それともS字やV字? 幅は?」
氷をまだカラカラやりながら目をさ迷わせている。
「もしかして、ちょっとパニッくてる?」
「んー、分かる? だって、ちょっとネット見ただけでもこーんなに沢山あるんだよ。さっきのお店だって凄かった」
そう言いながらスマホを見る。
「あっ、ねぇこれ見て。二人の指紋使ってデザインだって。凄い……こんなのまであるんだね。完全にオリジナルだね。でもさー、指紋って言ったら小野瀬さんの顔が浮かんじゃった」
そう言って『ふふふっ』と彼女が笑う。
「確かに、指紋っていうと、小野瀬さん連想すんな。……それ、その指輪、却下。ぜってーダメ。やだ!」
「あはは。昴ったら……ヤキモチ妬かないの。とにかくシンプルで普段つけられて、飽きないデザインで。そうだなあ、出来たらキズが目立たないようなのが良いな。ほら、この仕事だとキズつきそうだよねぇ」
そう言うとテーブルの上のオレの手を、取って言った。
「それから、昴のこの綺麗な指にしても見劣りしない指輪で、素敵だけど人気のデザインじゃないやつ」
「あ? 人気じゃないのが良いのか?」
「ん、だって人気だと誰かが同じのつけてそうじゃん……昴とペアリングは、僕だけなの」
(こいつは、また可愛い事言って。んーそうか……なら、プラチナでフルオーダにするか?)
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