「ん? そうか? オレも詳しくねーが、よく給料三ヵ月分とか言うだろ?」
「え? 三ヵ月分? そんなお高いの僕、怖くて普段着けられないよ。それに着けるにしても、あんまりゴージャスだと指輪だけ浮いちゃうよ?」
彼女は焦っているのか、ハンカチで汗を拭き拭き言う。
「なら、もっとシンプルなのが良いか?」
「うん、それに、出来たらもっと安いの」
彼女のその言葉に、オレは何だかおかしくなって『ふ、ふふふ……』と、笑ってしまった。
今まで高いものをねだられた事はあっても、こんな風に『安いものにしてくれ』と言われたのは、初めてだ。
「ん? ズレた発言……ヘンだった? あっ! もしかして、安いのにしたら昴が、恥をかくのかな? ぼ、僕セレブの事、よく分かってないから……ご、ごめん」
彼女が目を白黒させて、ますます焦る。
「考え過ぎ。そんな、謝んなよ。ズレてねーし、恥なんかかかねーよ」
「僕さ……」
彼女は言い掛けて止め、何だかモジモジしてる。
「何?」
「笑わない?」
上目遣いでチラっと見て聞いて来る。
「ああ、笑わない」
「あのね、僕も、昴にもなんかお返ししたいの。そう思って、お金も少しずつ貯めてたんだけど、結婚式や旅行もあるしさ……あんなに高価なのに見合うお返し……恥ずかしいけど、僕には無理」
そう言って恥ずかしそうに、赤い顔で俯いた彼女。何だか肩を落とし、ちょっとシュンとしてる。
ちゃんとオレの事を考えてくれてたのかと思うと、胸がじんわりあったかくなり彼女を抱きしめたくなった。だが、表なので抱きしめる変わりに腕を伸ばし頭を撫でた。
「ひーめ、ありがとう。じゃあ、また二人で選ぼう」
その言葉に、顔を上げてオレを見て『怒らないの?』と聞くから『姫には、このオレがその程度で怒るような、器の小さい男に見えるのか?』と少し意味深に見えるように微笑み、逆に聞き返した。彼女は『ふふ……見えない』と漸く笑った。
「何か気になるの、ねーのか? デザインとかさ」
「あのねー、婚約指輪と結婚指輪を重ねて着けられるのが、あるらしいの。セットリング……? とか言う……そういうのが良いかなって思うんだけど」
「ふぅーん、そうなのか。どんなのだ? 結婚情報雑誌に出てたのか?」
「うん、雑誌にも出てたし、ネットでも見たよ」
キーワードを入れてスマホで検索すると彼女が見たサイトが直ぐに見つかった。
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