二〇十三年、父さんとばあさん……もとい、楓さんから許しを得て結婚が決まった。
婚約したとオレ達自身も、周囲の人達も、そう思っている。だが、考えてみると正式に婚約式や結納をしたワケでもないし、オレは婚約指輪もまだ彼女にあげていなかった。それを彼女に言うとにこっと微笑み、こう返して来た。
「別に良いよ。婚約指輪は。もっと良いものもらってるもん。十分だよ」
「あ? オレ、なんかやったっけ?」
「うん、とても素敵なものもらってるよ」
その言葉に思い返して考えてみるが、思い当たらず……。
「悪りー、思い出せねー。本当にやったっけ?」
「んー? ふふ……」
「何? 教えて」
「昴の気持ちのこもった言葉。あれ、みーんなプロポーズと思って良んでしょ? 結構、沢山言ってもらってるよねぇ。ふふ……。もし二次会で聞かれたら、どれを答えて良いか迷っちゃうな。ねぇ、昴はどの言葉をプロポーズとして言ってくれたの? 『オレから離れるの禁止 』ってやつ?」
言われてみれば、確かにプロポーズに取れる言葉を何度も彼女に言ってる。今、彼女が言ったのとか『じいさん、ばあさんになっても一緒にいよう』とか。しかも演出も何もなく、日常の何でもねーとこで口にしてる。オレとしては、どの言葉も[彼女とずっと一緒にいたい気持ち]を込めて言った事に間違はいないが……。
(あれ、プロポーズになるのかな……プロポーズってもっとこう、なんつーか……)
プロポーズについて考え込むオレを見て、彼女が『プッ』と吹き出しクスクスと笑った。
「何、百面相してるの?」
「あ? ああ、いやー……」
返事をしながら思い出す。
(プロポーズと言うなら、彼女からも逆プロポーズみたいな言葉、もらったなー。嬉しかったなー。けど……うーーん)
またひとり考え込む。
(いやいやいや、やっぱりこれで済ませたらダメだろう。ここは、ちゃんと指輪渡してプロポーズしねーと。一生に一度の事だしな。んー指輪かぁ。指環は、彼女の好みで選びたいよなー。サプライズより、彼女の好みを優先に考えてーよな)
彼女は普段、装飾品を着けない。職業柄、着けてない方が邪魔にならないって事もあるし、仕事中は男装だからだ。着けるとしたら、プライベートの僅かな間になる。だからこそ尚更、婚約指輪は彼女が気に入ったのにしたい。
正直に一緒に指輪を見に行きたいと言うと、彼女は嬉しそうにふわりと微笑んだ。『なら、次の休みに見に行こうよ。来年から増税されるって言うから、買うなら今年中のがお安いよ』と言った。
(なまえって、まだ若いけど今まで苦労して来た分、しっかりしてるよな)
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