─昴の家─
帰りにドラッグストアでムカデ用の殺虫剤を買って散布した後
ビクビクと怯えるなまえに大丈夫だと何度も根気良く言うと怯え度合いが緩やかになり、身体の強張りが緩んだ。
薬を飲ませ、なまえの頬を胸に付けるように抱いてあやすように身体をポンポンと叩いてやると、安心したのかうとうとし始める。
青白かった顔も顔色が戻って来て昴はホッと一息ついた。
(昴:少し落ち着いたな。幾ら強がってたってやっぱり苦手なもんは怖いよな。オレだってもしGが出て触れたりしたら…ゾーッとする。考えただけで怖ー。…なんか、もっと虫避け対策をしないとな。そういえばトメが子供の頃、蚊帳を張ってくれた事があったな。明日買って来よう…)
翌日から、ベッドだけでなくリビングにも大きめの蚊帳を張った。なまえは安心するのか、家に戻ると蚊帳の中にいるようになった。
ムカデ事件が余程堪えたようでなまえは、あれから家でも職場でも口数が減ってすっかり大人しくなった。
日頃、元気で明るいなまえだけに室長始め捜査室のメンバーはかなり心配したが
阿久津:きっと…周囲に気配りする余裕ないのね。日常をこなして仕事するだけでいっぱいいっぱい。そういうなまえ君でも今まで通り、普通に接してあげて?もっと気持ちが落ち着くまで待ちましょう。
と、阿久津先生のアドバイスもあり
オレ達は憂慮しながらも見守る事にした。
*****
なまえはそんな状態でも持ち前の負けず嫌いと痩せ我慢を発揮して、毎年恒例の夏の強化合宿 別名『鬼の合宿』にも休む事なく参加し男連中に混じり黙々とハードメニューとこなした。
参加者の中には前時代的な男尊女卑思考の連中がいて「女のクセに生意気」「可愛いげがない」だの陰口を叩いたが、なまえは相手にしなかった。
が…。
刑事A:そのナリでも、男の下では良い声で啼くのか?まあ、オカマの下じゃ啼けねえか(嘲笑)
刑事A:ああ、そういえばお前ん所に入り浸ってる桜田門の光源氏様もいたな。
刑事A:フン、相手には困らねえって事か。周りみんな男だもんな。ついでに俺の相手もしてくれよ。ヒィヒィ啼かせてやるからよ?
刑事A:そうだなあ、とりあえず柔道の試合しようぜ?まずは寝技でヒィヒィ言わせてやるよ。まな板ショーのはじまり、はじまりってな。みんなも見てえってよ。
と試合を申し込んで来た。
藤守:なんやとっ!
明智:今の発言は赦せん!取り消してもらいたい!
如月:そうだ!真山と室長と小野瀬さんに謝って下さい!!
これには捜査室のメンバーもさすがに憤慨し一触即発の雰囲気が漂った。
なまえはスッと間に入り
なまえ:…良いですよ。訓練の一貫としての試合であれば、お受けします。
なまえ:ただし、僕が勝ったら先輩達への失礼な発言を訂正して皆さんの前で土下座して頂きますよ?それでも宜しいですか?
静かに、そう言い放つ。
その瞳の奥には怒りが揺れていて、相手を萎縮させる迫力があった。
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